こんにちは、公認会計士の岡 咲(おか・さき)です。(ペンネームです。会員検索してもこの名前では出てきませんので、悪しからず。)
会社分割は、一つの会社から一部事業を切り出して別の会社に移転させ、対価として移転先の会社の株式を受け取る取引です。
対象事業の移転先の会社が会社分割により新しく設立される会社の場合、「新設分割」といいます。対象事業の移転先の会社が既存の会社の場合、「吸収分割」といいます。
また、対価としての株式を分割元の会社が受け取る場合を「分社型分割」といい、分割元の会社の株主が受け取る場合を「分割型分割」といいます。
用語法として、「分社型」と「分割型」はどちらがどちらか混乱しやすいので、「会“社”が株式を受け取るから分“社”型」と覚えておき、分社型でないものが分割型、と覚えておくとよいでしょう。
M&Aにおいては、売買対象の事業を吸収分割により買い手企業に吸収させる取引や、新設分割により新会社に移管し、その新会社を株式譲渡により売却する取引などで活用されています。
M&A以外でも、複数事業を運営する事業会社がHD体制に移行する際、HD機能以外の事業部をそれぞれの事業子会社として新設分割により子会社化するなどの組織再編取引に活用されています。
会社分割は株式を対価とする企業結合の一種なので、他の取引類型と同様に、最初に取得企業と被取得企業の判定を行います。判定の方法はすべての企業結合取引に共通ですので、前回までの記事をご参照ください。
取得企業の判定ができましたら、それぞれの当事者ごとに会計処理が行われます。
会社分割の場合、登場人物は以下の4通りです。
(1) 分割元の会社(会計基準上の用語で「分離元企業」といいます。)
(2) 対象事業を受け入れる会社(会計基準上の用語で「分離先企業」といいます。)
(3) 分離元企業の株主
(4) 分離先企業の株主
会社分割の場合「新設分割、分社型」「新設分割、分割型」「吸収分割、分社型」「吸収分割、分割型」の4パターンが存在します。
一方、会計処理の方法は、上記の4パターンのどれに該当するかには直接関係がなく、以下の2つのポイントで定められています。
①分離元企業の会計処理
投資が継続しているか清算されたかに応じて決まります。
②分離先企業の会計処理
取得、逆取得、共通支配下の取引、共同支配企業の形成のどれに該当するかに応じて決まります。
会社分割の場合、①については、端数調整等のために若干の調整金をやり取りする場合もありますが、原則として対価は株式のみです。よって、投資の継続・清算は、株式交換の被取得会社の株主の処理の項で記載したように、分離元企業において当該会社の株式が「子会社株式」「関係会社株式」「その他有価証券」のいずれに該当することになるか、取引の前後でそのカテゴリにどのような変化が生じたかによって継続か清算かが決まります。
②については、前回までに何度も登場してきた考え方の通りです。まず株式移転の回で開設した手順に従って、分離元企業と分離先企業のいずれが取得企業、被取得企業になるかを判定します。
分離先企業が取得側と判定された場合は取得に該当し、分離元企業が取得側と判定された場合は逆取得に該当します。この時、前回の合併の回で開設した共同支配企業の形成の要件を満たす場合は共同支配企業の形成と認定されます。また、分離元企業と分離先企業が同一の株主に支配されている場合等は共通支配下の取引と認定されます。
それぞれの場合における会計処理は、今までの各種類型における会計処理と共通です。
それでは新設・分社型、新設・分割型、吸収・分社型、吸収・分割型の4パターンごとに仕訳例を見ていきましょう。
新設分割・分社型の場合、完全子会社が新たに設立されることとなり、分割後の親子いずれの会社も親会社の株主が継続して支配しています。したがって、共通支配下の取引に該当します。
よって、分離元企業においては、移転する資産・負債を簿価で消滅させ、差額を子会社株式に計上します。
分離先企業においては、分離元企業から受け入れる資産・負債を分離元企業が計上していた適切な簿価で受け入れます。増加する純資産は原則として資本金及び資本剰余金となりますが、例外処理として親会社の内訳を比例的に引き継ぐことが容認されています。
分離元企業の株主は、取引当事者でないため仕訳なしとなります。分離先企業の株主は、分離元企業そのものですので、別途仕訳は不要です。
(設例1)
A社は2つの事業部を有しているが、それぞれの事業が分社化に値する程度に成長したこと、部門別会計の精度を高めより適切な経営判断を行いたいことなどから、HD体制に移行することを決定し、分社型新設会社分割によりB社、C社を設立することとした。
会社分割前のA社の事業部別貸借対照表は以下のとおりである。会社分割にあたり、各事業部の資産・負債を移転し、純資産の内訳はA社の比率を引き継ぐものとする。
会社分割の前後で、A、B、C社すべてにおいて最終的支配者はA社株主であることに変わりがありませんので、共通支配下の取引となります。よって、A社はB社・C社に切り出す資産・負債の簿価を減少させ、貸借差額を子会社株式に振り替えます。
共通支配下の取引であるため、受け入れる資産・負債はA社の適正な簿価を引き継ぎます。純資産は、文中に指定の通り、A社の構成比を引き継ぎます。
A社株主は取引当事者ではないため、仕訳なしとなります。
仕訳なし
B社・C社株主はA社であるため、すでに①の仕訳で完結しています。
仕訳不要
分割型会社分割の場合、まず分社型会社分割を行って分離元企業が分離先企業の株式を受領し、当該分離先企業の株式を株主に現物配当したものとして会計処理を行います。分離元企業の株主は、従来保有していた株式の価値のうち、分割対象事業に係る部分が分離先企業の株式に振り替えられたものとして、合理的に按分処理する会計処理を行います。その他の処理は分社型の場合と同じです。
(設例2)
設例1について、分社型ではなく分割型で行った場合。
なお、A社の純資産中、資本剰余金は全てが「その他資本剰余金」であり、利益剰余金は「全額繰越利益剰余金」であるものとする。また、子会社株式の株主への現物配当においては、利益剰余金と資本剰余金の残高比例で純資産簿価を減少させるものとする。
分社型分割を行ったものとして会計処理を行い、次に子会社株式を株主に現物配当する会計処理を行います。
設例1と同じです。
子会社株式の適正な簿価を減少させ、同額の純資産を減少させます。純資産の内訳は、取締役会が会社法の規制の範囲内で任意に決定します。
設例では、資本剰余金と利益剰余金の比率に応じて減少させることと決定されましたので、資本剰余金500,000千円と利益剰余金2,000,000千円の比率により1:4の按分となります。
設例1と同じです。
従来のA社株式の簿価のうち、B社・C社に係るものをB社株式・C社株式に振り替える処理を行います。
振替額は、以下の方法で算定されます。
①A社の時価総額、B社・C社に移転した資産・負債の時価が判明している場合
→分割前のA社の時価総額とB社・C社に移転した純資産の時価の比率で按分
②A社の時価総額が分割前後それぞれ判明しているが、B社・C社に移転した資産・負債の時価が不明な場合
→分割前後のA社の時価総額の変動額をB社・C社の時価総額相当額とみなしてその比率で按分
③A社の時価総額、B社・C社に移転した資産・負債の時価いずれも不明な場合
→分割前A社純資産、B社に移転した純資産簿価、C社に移転した純資産簿価の比率で按分
(①の場合)
分割前のA社時価総額は4,000,000千円、B社への移転純資産時価は1,500,000千円、C社への移転純資産時価は1,000,000千円であり、A社株主Dは、A社株式を簿価100,000千円で計上していた場合
B社移転純資産はA社時価総額の37.5%、C社移転純資産はA社時価総額の25%となります。よって、株主Dは、A社簿価100,000千円の37.5%をB社株式に、25%をC社株式に振り替えます。
(②の場合)
B社とC社の会社分割が順次行われたものとし、B社分割前のA社時価総額は400,000千円、B社分割後のA社時価総額は200,000千円、C社分割前のA社の時価総額は195,000千円、C社分割後のA社時価総額は95,000千円であり、A社株主Dは、A社株式を簿価100,000千円で計上していた場合
B社株式については、A社株式の50%に相当しますので、簿価100,000千円の50%の50,000千円を按分します。
C社株式については、B社按分後のA社株式の48.718%に相当しますので、残りの簿価50,000千円の48.718%の24,359千円を按分します。
(③の場合)
A社時価総額、B社純資産時価、C社純資産時価いずれも不明である場合
A社の分割前純資産簿価300,000千円、B社の移転純資産簿価1,550,000千円(51.667%)、C社の移転純資産簿価800,000千円(26.667%)に応じてDのA社株式簿価100,000千円を按分します。
設例1と同じです。
吸収分割の場合、他のM&A取引の場合と同様、まず当該取引が取得、逆取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引のどれに該当するかを判定します。判定方法は他の取引類型と共通ですので、過去記事をご参照ください。
取得の場合、会計処理は以下の通りになります。
分割元企業は、分割前後の株式保有状況の変動パターンに応じて、以下の処理を行います。
分割前 | 分割後 | 対価として取得する分割先株式の評価 | 移転損益 | 備考 |
---|---|---|---|---|
保有していない | その他有価証券 |
分割先株式の時価または移転事業の時価 |
発生する | |
関係会社株式 | 移転事業の株主資本相当額の適正な簿価 | 発生しない | ||
子会社株式 | 移転事業の株主資本相当額の適正な簿価 | 発生しない | 逆取得に該当 | |
その他有価証券 |
その他有価証券 |
分割先株式の時価または移転事業の時価 |
発生する |
|
関係会社株式 | 移転事業の株主資本相当額の適正な簿価 | 発生しない | ||
子会社株式 | 移転事業の株主資本相当額の適正な簿価 | 発生しない | 逆取得に該当 | |
関係会社株式 | 関係会社株式 | 移転事業の株主資本相当額の適正な簿価 | 発生しない | |
子会社株式 | 移転事業の株主資本相当額の適正な簿価 | 発生しない | 逆取得に該当 | |
子会社株式 | 子会社株式 | 移転事業の株主資本相当額の適正な簿価 | 発生しない | 共通支配下の取引に該当 |
どの場合も、移転対象資産・負債の消滅を認識しますが、上記の表中黄色くハイライトされた類型の場合は取得した移転先企業株式を移転先企業株式の時価または移転事業の時価のうちいずれか信頼性の高い方で評価し、貸借差額を移転損益に計上します。
それ以外の場合、移転先企業株式を移転対象資産・負債の適正な簿価に基づく移転事業の株主資本相当額で評価しますので、移転損益は発生しません。
なお、分割先企業が子会社の場合、共通支配下の取引に該当します。また、会社分割により分割先企業の株式が増加することはあっても減少することはないため、関係会社→その他有価証券、子会社→関係会社/その他有価証券、という変化は吸収分割の場合は発生しません。
分割元企業から受け入れるすべての資産・負債を時価で受け入れます。顧客リスト等、分割元が未認識の無形資産も時価で評価し、資産計上します。取得対価として交付した株式については、分割先企業が上場会社の場合は分割の日の市場株価に交付株式総数を乗じた額とし、非上場会社の場合は分割元企業の株式の公正価値または分割対象事業の公正価値のいずれか信頼性の高いほうで評価します。増加する自己資本勘定の内訳は、会社法の枠内で分割元企業の取締役会が任意に決定します。貸借差額はのれんまたは負ののれんに計上します。
この会計処理は、合併の場合と非常によく似た処理となります。
取引当事者ではないため、仕訳は発生しません。
取引当事者ではないため、仕訳は発生しません。
それでは設例を見てみましょう。
(設例3)
分離元企業E社はF事業部を分離先企業G社に吸収分割した。この取引はG社によるF事業の取得と判定された。
E社は分割前にはG社株式を保有しておらず、分割後のG社持ち分は5%となるため、その他有価証券として計上されることとなった。G社は上場会社で、吸収分割時の時価総額は100,000百万円であった。G社は対価として発行した新株のうち半額を資本金、残額を資本剰余金とすることとした。
会社分割により移転するF事業部の資産負債の簿価及び時価は以下の通りである。
移転対象資産・負債の簿価を消滅させ、取得した株式(その他有価証券)を分割の日の時価で評価し、貸借差額を移転損益に計上します。
移転対象資産・負債を時価で受け入れ、対価を分割日の時価で評価し、貸借差額をのれんまたは負ののれんに計上します。
取引当事者ではないため仕訳は発生しません。
仕訳なし
取引当事者ではないため仕訳は発生しません。
仕訳なし
逆取得の場合、仕訳は以下の通りになります。
移転する資産負債の簿価を消滅させる点では取得の場合と共通です。
対価として受け取った分離先企業の株式は、移転する資産負債の適正な簿価に基づく株主資本相当額とし、移転損益は発生しません。
受け入れる資産、負債、評価換算差額等は分離元企業が計上していた適正な簿価で評価し、移転偉業に係る株主資本相当額を増加払込資本額として仕訳を行います。よってのれんは発生しません。
取引当事者ではないため仕訳は発生しません。
仕訳なし
取引当事者ではないため仕訳は発生しません。
仕訳なし
→結果として、新設分割の場合と同様な処理となります。
・共同支配企業の形成の場合、逆取得と同様な処理となります。
・共通支配下の取引の場合、新設分割と同様な処理となります。
分割型吸収分割の場合、分割型新設分割の場合と同様、分割元企業において分社型吸収分割と同様の処理を行い、対価として得た分割先企業株式を分割元企業株主に現物配当を行う処理を行います。
分割元企業の株主は、従来保有していた株式の価値のうち、分割対象事業に係る部分が分離先企業の株式に振り替えられたものとして、合理的に按分処理する会計処理を行います。
これらの処理は、分割型新設分割の場合と全く同じです。
以上が会社分割の仕訳となります。次回はいよいよ個別会計によるM&A仕訳の最終回です。第三者割当増資を取り上げます。
文:岡 咲(公認会計士)/編集:M&A Online編集部
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