こんにちは、公認会計士の岡 咲(おか・さき)です。(ペンネームです。会員検索してもこの名前では出てきませんので、悪しからず)
今回、M&A Onlineさんにご縁をいただき、「M&A類型別 個別会計上の仕訳」について書かせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、第1回は具体的な仕訳に入る前に、M&Aの仕訳の全体像についてお話しさせていただきたいと思います。
M&Aの類型と仕訳については、縦軸に「どの基準か、個別会計か、連結会計か、税務か」という3つの分類があり、横軸に「M&Aの取引類型のうち、①株式取得 ②事業譲渡 ③株式交換 ④株式移転 ⑤合併 ⑥会社分割のどれに当てはまるか」という6つの分類があります。
M&Aに限らないのですが、一口に「会計」「仕訳」と言っても、本当は「個別会計」「連結会計」「税務」の3つの基準があり、大半は共通していますが、一部で全く違う処理が求められるものもあります。
M&A関連の仕訳は、この3つがそれぞれ異なる処理を求めている場合が多くあります。
例えて言うなら、漢字の大半は日本語でも中国語でも同じ意味ですが、一部日本語と中国語で全く違う意味になる字もある、というようなものです。まずは縦軸の「どの基準か」という分類について説明させていただきます。
M&A関連の仕訳を理解するためには、「個別会計」「連結会計」「税務」の3つをそれぞれきちんと区別して考えていくことが大切です。そして、この3つの構造としては、まず基本の位置づけとして「個別会計」があり、「連結会計」「税務」はそれぞれ「基本的に個別会計と同じ処理を行うこと」という原則を定めたうえで、例外として、「こういう場合には個別会計の処理と異なる処理を行うこと」という例外を定める仕組みになっています。
ですから、まずは連結会計と税務は後回しにして、個別会計の処理をきちんと理解することが重要です。
ところが、遵守しなかった時の罰則の範囲が原則である「個別会計」と例外である「税務」で逆転しているため、税務のほうが原則であるかのような思い込みが世間一般に根強く広まっています。
「税務」は、日本国内に居住するすべての法人・個人が例外なく遵守しなければならず、違反すれば重加算税と懲役刑が待っています。このため、ほとんどの人は税務の諸規定を遵守しなければどうなるか、その末路をリアルな恐怖として実感しており、「税務はきちんとしなければいけない」という意識はほとんど全ての会社に浸透しています。
他方で「個別会計(決算)」は、会社法上の大会社であれば、公認会計士の監査を受けなければならないため、遵守しなければ監査が通らず、取締役の責任問題となって株主から辞任や損害賠償を請求されたり、銀行等の債権者から繰り上げ返済を迫られたりする、ということが起こりえます。
しかし、あくまでも株主や債権者との間の民事責任だけの問題で、税法違反の場合のように国家権力による懲罰を受けることはありません。
また、上場会社であれば、やはり公認会計士の監査を受けなればないため、遵守しなければ監査が通らず、取引所から上場廃止等の処分を受け、それに伴う取締役の責任を株主から追及されるというペナルティを課されますが、やはり国家権力からのおとがめはありません。そして、日本の会社のほとんど全てを占める会社法上の大会社に該当しない非上場の会社の場合、個別会計の処理を定める各種会計基準の順守は事実上単なる努力義務に過ぎず、違反しても何のお咎めもありません。
したがって、大半の会社の場合、税法さえ守っていればよいということになりますので、税務こそが原則であるかのような思い込みに陥ってしまいます。
この思い込みがあると、「個別会計」の基準の理解をしようとするときに、混乱や誤解のもとになります。
「M&Aの仕訳については、税務と個別会計は日本語と中国語くらい違う。今から勉強するのは中国語のほう。そして、オリジナルは中国語のほう」というくらいの意識を持つことが必要だと思います。
さて、横軸の取引類型は、以下の通り全部で6種類あります。
① 株式取得
② 事業譲渡
③ 株式交換
④ 株式移転
⑤ 合併
⑥ 会社分割
このほか、いわゆるM&Aには該当しないものの、類似した取引として第三者割当増資があります。
※個別会計の仕訳の説明ですので、今回の連載で連結会計と税務については扱いません。(次回「株式取得(譲渡)の仕訳」に続きます)
文:岡 咲/編集:M&A Online編集部
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