失敗? 成功? 巨額損失を計上したM&A10選

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M&Aは成功ばかりではなく失敗もつきもの 巨額損失を計上したM&A事例を振り返る

 M&Aを実行するときに失敗を想像する経営者はいないはず。しかし、買収時の想定に反して巨額損失の計上に追い込まれるM&Aは、いつの時代にも少なからず存在する。失敗から学ぶため、その一部を見てみよう。

巨額損失M&A事例10選

1.パナソニック<6752>⇒三洋電機
2009年に4000億円以上を投じて買収。その後、10年に追加投資して完全子会社化。最終的に8100億円以上を投じたものの、リチウム電池事業の読み違いなどから13年3月期個別決算で6000億円以上の評価損を計上。

2.日立製作所<6501>⇒米国IBM(HDD事業)
02年に2500億円を投じて買収、HDD駆動装置で世界3位に浮上。その後、5年間黒字化せず、07年3月期個別決算で1600億円の評価損を計上。しかし、09年3月期に黒字化に成功し、米国市場での株式公開を検討する。最終的に米国ウェスタン・デジタル(WD)に39億ドル(当時のレートで3500億円)の現金と9億ドル相当のWD株式(発行済み株式数の約10%)で売却に成功した。【日立製作所】危機から一転好調へ。選択と集中にM&Aを活用

3.古河電工<5801>⇒米国ルーセントテクノロジー(光ファイバー事業) 
01年11月に21.27億ドル(当時のレートで2800億円)を投じて買収し、光ファイバー業界で世界2位に。しかし、買収直後から売り上げが激減し、最終的にはピーク時(2000億円)の5分の1まで減少。連結株主資本が半減し、54年ぶりの無配に転落する事態になり社長が辞任。04年3月期には1000億円の評価損を計上した。なお、同部門は15年3月現在では売上高1500億円、部門営業利益80億円を計上するまでに回復している。

4.富士通<6702>⇒英国ICL
1990年に以前から業務提携関係にあった英国ICLを1890億円にて買収し、株式の80%を取得する。電算機で世界2位となり、IBMを追撃する体制を整えた。その後98年には完全子会社化。その後も富士通の欧州の拠点としてドイツ企業を買収するなどして累計投資額が3500億円を超えたが、業績は悪化していた。結局、07年3月期個別決算で2900億円の評価損を計上する。【富士通】「虎の子」を使い切り、背水の陣でM&Aに挑む

5.セブン&アイ・ホールディングス<3382>そごう・西武
06年に1300億円を投じて野村プリンシパル・ファイナンスから株式の65%を取得。その後、株式交換で完全子会社化。累計で2300億円を投じたものの、業績は上向かず評価減を行うに至る。10年2月期個別決算で670億円の評価損を計上した。【セブン&アイ・ホールディングス】国内最大級の小売業が次に繰り出すM&Aとは?

6. NTTコミュニケーションズ⇒米国ベリオ
00年9月に6000億円の巨費を投じて買収し、NTTグループにとって悲願の海外進出を実現するも業績が悪化。わずか1年後の01年9月中間期で5000億円の減損損失を計上するに至る。

7.グリー<3632>⇒ポケラボ
12年10月に設立5年、売上高5億円のゲーム会社を138億円で買収。ヒット作に恵まれず、15年6月期第2Qに93億円の減損損失を計上。同時に、米国ソーシャル・ゲーム・プラットフォーム会社への出資90億円の減損損失を計上した。【グリー】非ゲーム事業でM&Aも、巻き返しなるか

8.HOYA<7741>⇒ペンタックス
ペンタックス経営陣の反対など、紆余曲折を経て07年11月に1000億円で買収。その後、吸収合併する。しかし、業績が上向かず、09年3月期連結決算では304億円の減損損失を計上。さらにその後、11年にデジカメ部門がリコーへ売却される。

9.第一三共<4568>⇒印ランバクシー
08年11月にインド製薬メーカーのランバクシーの株式の63.9%を4900億円で買収。公開買付発表直後に、米国FDAからランバクシーの医薬品が安全基準を満たしていないとして、輸入禁止措置が取られる不幸に見舞われた。09年3月決算で3500億円(個別決算ベースでは4000億円)の評価損を計上し、社長交代劇にまで発展、マスコミをにぎわせた。しかし、その後15年に同じインドのサン・ファーマシューティカル・インダストリーズと合併したことにより同社の9%の株式を取得。4月に株式市場にて3800億円で売却してエグジットした。結果1100億円の損失で済んだものの、組織の疲弊や、6年以上もの「時間を失った」代償はあまりに大きい。【第一三共】国内第3位の製薬会社のM&A苦難の道のり

10.新生銀行<8303>⇒アプラス
04年に第三者割当増資を引き受けて350億円で普通株式の67%、優先株式を300億円でUFJ銀行から取得。その後1430億円、200億円と計1630億円の優先株式を追加引き受けしたが、過払い金訴訟のあおりもあって業績が悪化。1010億円の減損損失を計上するところまで追い込まれた。

 以上、10の巨額損失M&A事例を振り返った。
日本企業はM&;Aが下手だとの指摘は良く耳にするが、M&Aで失敗するのは日本企業だけではない。
M&A慣れしていると思われている欧米企業でもM&Aで大きな失敗をしている。

欧米企業編3選

1.米国ウォルマート<WMT>⇒西友
02年3月から資本提携を開始。当初は西友が経営不振だったことから新株予約権を使った段階的な実行スキームを採用したが、結局、西友の経営は上向かず05年12月に子会社化する。その後、07年に1000億円を投じて完全子会社化し、最終的な投資額は2470億円になった。振り返れば、02年の段階なら1000億円で完全子会社化できたはずで、図らずも戦力の逐次投入がいけないことを証明する事例となった。ただし、ここ最近の西友は元気がよく侮れない。

2.英国テスコ<TSCO>⇒シートゥーネットワーク
03年に320億円を投じて買収、華々しく日本市場に参入した。しかし、好調だったつるかめランドの業績を伸ばすことができずに経営が迷走。最終的に11年、持ち分の50.1%を1円でイオンに譲渡する羽目になった。

3.米国マイクロソフト<MSFT>フィンランド・ノキア携帯端末事業
14年に72億ドルで買収したものの、スマホの販売が低迷、76億ドル(当時のレートで9200億円)の減損損失の計上に追い込まれる。ソフトメーカーによるデバイスメーカーの買収の難しさを示す結果となった。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

文:M&A Online編集部

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