【ホンダ】トヨタとも日産とも違う、独自「系列再編」の行方は?

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ホンダ<7267>が系列部品メーカー(サプライヤー)の再編に動き出した。2019年10月にホンダが筆頭株主となっているケーヒン<7251>、ショーワ<7274>、日信工業<7230>の3社に対してTOB株式公開買い付け)を実施して完全子会社化すると発表した。その上で、日立製作所<6501>の全額出資子会社である日立オートモティブシステムズ(茨城県ひたちなか市)が3社を吸収合併する。

ホンダ系3社と日立オートモティブシステムズとの経営統合プロセス(ニュースリリースより)

「系列再編」で先行するトヨタを追撃

合併後の統合会社への出資比率は日立が66.6%、ホンダ33.4%。統合会社の売上規模は約1兆8000億円となり、トヨタ自動車系のデンソー<6902>、アイシン精機<7259>に次ぐ国内第3位の自動車部品メーカーに躍進する。4社統合により、自動車部品業界での国際的な競争力強化を目指す。

合併の前提となるホンダによる系列3社に対するTOB内容は、ケーヒンが買付価格2600円(TOB公表前日の終値1898円に36.99%のプレミアム)で、買付代金1127億7967万円。ショーワが買付価格2300円(同1806円に27.35%のプレミアム)で、買付代金1161億9083万円。日信工業が買付価格2250円(同1793円に25.49%のプレミアム)で、買付代金953億円5342万円。TOBの開始日や買付期間は未定。

自動車部品の業界再編では国内最大手のトヨタ自動車<7203>グループが先行している。2014年にブレーキ事業をアドヴィックス(愛知県刈谷市)へ集約したほか、トヨタのディーゼルエンジン開発・生産を豊田自動織機<6201>へ移管。2015年にはシート骨格機構部品の開発・生産をトヨタ紡織<3116>に集約した。2018年にトヨタの主要電子部品事業を、系列最大手のデンソーへ移管した。

2019年にデンソーが燃料ポンプモジュールなどエンジン関連部品を手がける愛三工業<7283>への出資比率を8.7%から約38%に引き上げ、エンジン関連部品を同社へ集約する。同年にはアイシン精機が変速機世界最大手で子会社のアイシン・エィ・ダブリュ(AW)と経営統合すると発表。2020年4月にアイシンAWが40%の自社株を持つトヨタから全株を取得し、2021年4月には60%のアイシンAW株を保有するアイシン精機に吸収合併される。

2020年1月に駆動部品である電子制御カップリングやトルセンLSD(Limited Slip Differential)などのトルクコントロール装置を生産するジェイテクト<6473>が、同じ駆動部品のデファレンシャルギヤやデファレンシャルアッセンブリーを手がける豊精密工業(愛知県瀬戸市)を完全子会社化した。

なぜ「系列再編」を進めるのか?

こうした業界再編には二つの「動機」がある。一つは「CASE」と呼ばれる新技術への対応。CASEとは、Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字を取ったもの。具体的にはインターネットとつながる様々なサービスの提供や自動運転、カーシェアリング、電気自動車(EV)などへの対応を指す。

いずれも自動車メーカーの弱い分野であり、自動車部品メーカーにとっても未経験の世界だ。これらはICT(情報通信技術)の世界であり、情報産業やエレクトロニクス産業の方が親和性が高い。ホンダが自社系列のサプライヤーを日立系部品メーカー主導で経営統合させるのも、CASEへの対応を意識したためだ。

もう一つは激しいコストダウン競争。「コストダウン、コストダウンと言う割には自動車価格は値下がりしていないではないか」との声も聞かれる。が、自動車業界では安全対策や環境対策を求められ、かつてオプションで数十万円していた装備を導入しながら車体価格を据え置いている。それが実現できたのも、部品調達でのコストダウンを進めてきたからだ。

厳しいコストダウンは経営規模の小さいサプライヤーでは対応できないため、規模拡大するしかない。それで系列サプライヤーの再編となるわけだ。一方、1990年代からカルロス・ゴーン前会長主導で苛烈(かれつ)なコストダウンを断行してきた日産自動車<7201>では、早々に系列を解体し、最も安いサプライヤーからならどこからでも買う「世界最適調達」にハンドルを切っている。

ホンダはトヨタのように自社系列を再編するのか、それとも日産のような系列解体に進むのか、その行方が注目されていた。結局、系列は再編するが主導権は他社に手渡すという「第三の道」、あるいはトヨタと日産の「混合方式」ともいえる選択をしたことになる。

コロナ禍に阻まれた?系列3社のTOB

しかし、そうしたホンダのサプライヤー戦略に、早くも障害が立ちはだかった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)だ。感染拡大の影響を受けたのは第4四半期(2020年1〜3月)だけだったにもかかわらず、再編を控えたケーヒン、ショーワ、日信工業の業績は、いずれも減収減益だった(日信工業は当期利益のみ増加)。

ホンダがTOBする3社の業績
ケーヒン ショーワ 日信工業
売上高 2953 2604 1815
対前期比増減率 -9.2 -9.2 -4.3
営業利益 56 223 142
対前期比増減率 -77.9 -26.0 -12.5
経常利益 15 216 148
対前期比増減率 -93.6 -27.7 -10.2
当期利益 -64 125 112
対前期比増減率 -34.0 53.1

(2020年3月期、単位:億円)

まだ新型コロナの収束は見えず、3社とも2021年3月期の業績予想を明らかにしていない。「2020年5月がめど」と言われていたTOBも手つかずのままで、当然ながら日立オートモティブシステムズとの経営統合もいつになるか分からない状況だ。

2019年6月に欧米FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)と仏ルノーによる年産1500万台という過去最大の経営統合も、当初は双方が前向きだったにもかかわらずフランス政府からの「横槍」が入って頓挫した。ホンダによる3社のTOBという系列内再編は揺るがないだろうが、外部である日立オートモティブシステムズとの経営統合にはどのような「横槍」が入るか分からない。一刻も早く再編を断行するに越したことはない。

ホンダの系列サプライヤー再編は、これで終わりではないはずだ。ホンダの系列には今回の再編対象となる3社以外にも、 テイ・エス テック<7313>や武蔵精密工業<7220>、ジーテクト<5970>など8社の大手サプライヤーが存在する。いずれはこれらのサプライヤーにも再編のメスが入るはずだ。先行事例となるケーヒン、ショーワ、日信工業の3社と日立オートモティブシステムズとの経営統合が成功しなければ、ホンダの系列サプライヤー再編も頓挫してしまう。

コロナ禍による業績不振にかかわらず、3社のTOBを早期に実現することがホンダにとって喫緊の課題だ。むしろコロナ禍のような「非常事態」に対応するためにも、系列サプライヤーの再編が必須と言える。自動車の生産コストのうち、実に8割はサプライヤーの生産する部品が占める。生産台数が伸び悩めば、コスト競争力の強いメーカーしか生き残れない。サプライヤー戦略がつまずけば、待っているのは自動車メーカーの経営危機だ。ホンダにとって系列3社の再編は、自社の「生き残り」を賭けた正念場なのである。

文:M&A Online編集部

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。