名門企業を震え上がらせる復活「村上ファンド」とは

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復活の「村上ファンド」

 2018年1月にマグロ運搬船を運航する東栄リーファーライン<9133>の社長らによるMBO(経営陣が参加する買収)阻止に影響力を発揮し、2017年12月には電子部品専門商社・黒田電気<7517>TOBで計84億円の利益を得るなど、「もの言う株主」として再び表舞台に飛び出した村上世彰氏。かつて「村上ファンド」で株主の権利を行使し、それまで「総会屋対策」止まりだった日本企業の株主対応を大きく変えたといわれている。インサイダー取引をめぐるスキャンダルで「強制退場」させられた村上氏の復活は、日本企業を変えるのか?それとも一時的な「波乱」に終わるのか?

 村上ファンドは経済産業省を退職した村上氏が1999年10月に立ち上げたエム・エー・シー(MAC)をはじめ、M&Aコンサルティング、MACアセットマネジメントなどで組織する投資グループの総称だ。2000年に当時、東証2部に上場企業していた昭栄(現・ヒューリック)<3003>に日本で初めての敵対的TOB株式公開買い付け)を実施したのが「初陣」。2002年にアパレルメーカー・東京スタイルの筆頭株主になると、同社が計画していた内部留保によるファッションビル建設を取り止めて、その資金での自社株買いを求める株主提案権行使請求書を提出。いずれも村上ファンド側の敗北に終わったが、株主利益の視点から「会社は誰のものか」と議論を呼ぶ契機となり、マスメディアに注目される。

 「時の人」となった村上氏は2003年にニッポン放送、2004年に倉庫大手の住友倉庫<9303>、2005年に玩具メーカー大手のタカラ(現・タカラトミー)<7867>や 阪神電気鉄道、東京放送(現・東京放送ホールディングス)<9401>などの株式を相次いで取得。「もの言う株主」として経営陣と対立する。村上ファンドは2006年3月末で4444億円を運用しており、そのうち3705億円が海外の大学財団などから、残り739億円がオリックス<8591>やウシオ電機<6925>、立花証券など日本企業からの出資だったといわれている。しかし、2006年にニッポン放送株のインサイダー取引容疑で村上氏が逮捕され、ファンドは解散。その後は活動拠点をシンガポールへ移し、しばらくはマスメディアから遠ざかっていた。

「もの言う株主」続々と提案

 村上氏はインサイダー事件の執行猶予期間が終わると、2015年8月に黒田電気の臨時株主総会で自らを含む4人の社外取締役選任を提案し、活動を再開している。しかし、活動再開早々の同年11月に東証1部上場のアパレル大手・TSIホールディングス<3608>の株価操作を疑われて証券取引等監視委員会から金融商品取引法違反容疑で強制調査が入るなど、波乱の幕開けとなった。村上氏はこれについて「相場操縦をする意図も理由もないこと」「借名口座は使っていないこと」「空売り自体が市場に誤解を与えるものではないこと」を挙げて取引は正当だったと主張している。

 2017年11月には旧村上ファンド出身者が設立したエフィッシモ・キャピタル・マネジメントが経営危機に苦しむ東芝<6502>第三者割当増資に応じ、議決権の11.34%を持つ同社の筆頭株主になった。この時の増資は6000億円で、新株式数は発行済み株式総数の約54%に当たる22億8310万5000株に上った。「希薄化が大きい」との批判がある一方で、「債務超過を解消し、自己資本増強につながる」と前向きに受け止める見方もあり、今も評価が分かれている。

 エフィッシモは2017年6月に日産車体<7222>へ増配の株主提案をしたほか、川崎汽船<9107>やリコー<7752>、ヤマダ電機<9831>、第一生命ホールディングス<8750>でも筆頭株主として目を光らせている。このほか同12月には旧村上ファンド系投資ファンドのオフィスサポートとレノが日本郵船<9101>株を5.12%から5.64%に買い増した。

 同じく旧村上ファンド出身者が立ち上げたストラテジックキャピタルは蝶理<8014>や新日本空調<1952>、帝国電機製作所<6333>、図書印刷<7913>などに政策保有株の売却や剰余金の処分を要求した。いずれも株主総会で否決されたが、旧村上ファンド勢力の「もの言う株主」ぶりを存分に発揮した。

空前のカネ余りが追い風に

 村上氏本人を含む旧村上ファンド勢力の活動がマスメディアで大きく取り上げられて存在感を増したことで、彼らのファンドに大量の資金が流れ込むことになるだろう。2017年後半以降の東芝、黒田電気、東栄リーファーラインでの相次ぐ成功事例も、新たな資金の「呼び水」となる。村上氏がシンガポールに拠点を置いていることから、アジアからの資金を集めやすいはずだ。ビットコインなどの仮想通貨規制や日本の都心タワーマンションの価格下落などで行き場を失った中国マネーの受け皿になるかもしれない。

 なにより日本国内がカネ余りの状況だ。アベノミクスによる日本銀行の「異次元緩和」で、金融機関はダブついたマネーの運用に困っているのが実情という。最近では金融機関が資金運用先としてM&Aに注目している。M&Aのノウハウに乏しい金融機関が、辣腕を振るう旧村上ファンド系のM&Aに乗っかって運用することも考えられる。豊富な資金をバックに旧村上ファンド勢力主導による超大型案件が飛び出す可能性は極めて高いと言えよう。

 とはいえ、それが運用として「正解」かどうかは分からない。第一に旧村上ファンド勢力は証券取引等監視委員会はじめ政府当局から厳しく監視されており、少しでも問題があれば捜査当局の介入を受ける状況だ。万一、違法行為があった場合は旧村上系のファンドに資金提供をした金融機関などの企業がコンプライアンス上の責任を問われかねない。未上場企業はともかく、上場企業にとっては気になるところだ。

 さらに「異次元緩和」の限界が指摘されており、日銀が「緩和」から「引き締め」に政策転向した場合、投資家が旧村上ファンド勢力はじめ投資ファンドから一斉に資金を引き上げる「バブル崩壊」の危険性もある。このところ連戦連勝の旧村上ファンド勢力だが、彼らに「乗っかる」のであれば十分にリスクを確認しておきたい。

文:M&A Online編集部