富士通も撤退!ジリ貧国産スマホ「最後の希望」はソフトバンクか

alt

 富士通<6702>は2018年3月、携帯子会社の富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)と製造子会社である富士通周辺機の携帯電話部門を投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループに売却する。富士通はFCNT株の30%、富士通周辺機から携帯電話部門の譲渡を受ける新会社のジャパン・イーエム・ソリューションズ(JEMS)株の19%を保有し、「らくらくスマホ」や「arrows」などのスマートフォン(スマホ)の生産は継続される。 しかし、事業の主導権はポラリス側に移り、富士通はスマホをはじめとする携帯電話事業から事実上撤退する。

「arrows NX F-01K」
富士通の最新スマートフォン「arrows NX F-01K」(同社ホームページより)

「ガラパゴス」崩壊で失速した国産ケータイ

 国産メーカーは携帯電話市場の成長が続いているにもかかわらず、続々と退場している。国産携帯電話はNTTドコモ<9437>が1999年に世界初の携帯電話インターネット(IP)接続サービス「iモード」を開始して以来、「ガラパゴス化」した携帯IPサービスに対応する日本独自のフィーチャーフォンで海外メーカーからの参入から守られてきた。さらには国内大手3キャリアのシェア争いに伴って多額の販売奨励金がバラまかれ、「0円ケータイ」に代表される値引き販売で販売台数は急増し、国産携帯電話メーカーは「わが世の春」を謳歌した。

 状況が一変したのは2007年。米アップルが同社初のスマホとなる「iPhone」を発売したのだ。翌2008年には米グーグルが携帯用基本ソフト(OS)の「Android」を公開し、複数の携帯電話メーカーが搭載機を発売した。iPhoneや、Androidを搭載したスマホが大ヒットしてフィーチャーフォンを駆逐したため、「国産携帯電話メーカーの敗因はスマホに乗り遅れたこと」と言われている。実はiモードやau(KDDI)<9433>の「EZweb」、J-フォン(現・ソフトバンク)の「J-スカイ」といった「国内キャリア独自のIPプラットフォーム」から、iPhoneを動かすiOSやAndroidといった「グローバルOSベースのIPプラットフォーム」に代わったことが大きい。1台の端末で、どこの国のどのキャリアでも高度なIP接続サービスが可能になり、国内キャリア3社の独自IPプラットフォームで守られていた日本市場は一気に「開国」した。

20世紀末には「スマホ先進国」だった日本

 ちなみに「日本が出遅れた」と言われるスマホだが、今から20年以上前の1997年には松下電器産業(現・パナソニック<6752>)がPHS付き携帯情報端末「ピノキオ」を、東芝<6502>がPHS内蔵ポケットコミュニケータ「GENIO(ジェニオ )」など国産メーカーがスマホのカテゴリーに入る端末を発売している。いずれも1台の端末で通話とデータ通信ができる、れっきとしたスマホ。発売時期ではフィンランドのノキアが世界初となるスマホ「Nokia 9000」を発売した1996年に次ぐ早さであり、複数のメーカーがスマホを相次いで投入したことからも、日本がスマホ黎明期においては明らかに「先進国」だった。

 ピノキオやGENIOは販売不振で注目されなかったが、iPhoneが登場する2年前の2005年にはシャープ<6753>が米マイクロソフトの「Windows Mobile」OSを搭載したPHSスマホ「W-ZERO3」を投入し、スマホでは初めてのヒット商品となっている。残念ながら90年代後半に登場した国産スマホの第1世代は国産フィーチャーフォンに敗れ、フィーチャーフォンをしのぐ機能でヒットした2000年代後半の第2世代は後発のグローバルOSにシェアを奪われた。

 結局、国産メーカーは「スマホ先進国」の歴史と経験を生かせず、Android端末メーカーとして生き残りを図る。しかし、安価な中国・台湾製端末や高機能な韓国製端末との競争に勝てず、2008年以降は三菱電機<6503>、東芝、NEC<6701>、パナソニックなどが相次いで携帯電話端末事業から撤退。富士通の事実上の撤退で、残るはソニー<6758>、シャープ、京セラ<6971>となる。もっともシャープは鴻海精密工業の傘下にあり、「純国産メーカー」はソニーと京セラだけだ。

  IDC Japanの調査によると、2017年の国内携帯電話(フィーチャーフォン・スマホの合計)販売台数シェアはアップルが46.6%と圧倒的で、ソニーが13.4%、シャープが9.8%、京セラが8.9%、富士通が8.0%と続く。富士通の「脱落」により、ソニー・京セラの純国産シェアは22.3%、事実上の外資であるシャープを含めても32.1%と3分の1にも届かない。今後、これらの国産メーカーが再び世界で存在感を示すことはできるのか。

救世主は「予想外」のソフトバンク?

 残念ながら、それは望み薄だ。「高付加価値のスマホに特化すべき」との意見はあるが、すでにブランドイメージが定着しているiPhoneに質的な付加価値で対抗するのは難しい。iPhoneをしのぐ高機能スマホは韓国・サムスン電子が先行しており、今や世界最大のスマホメーカーになった同社に研究開発で追いつくのは不可能だろう。

 ならば量産メーカーが手を出しにくい個性的なスマホならどうか。そこにも強力なライバルが存在する。クラウドファンディングだ。スマホは部品の汎用化が進んでおり、たとえばドライブレコーダー用の液晶パネルを流用した超小型スマホを生産することもできる。自社工場を持たないファブレスも当たり前だ。中国Unihertzの重さわずか60.4gという超小型スマホ「Jelly Pro」も、クラウドファンディングから量産にこぎつけた。

「Jelly」
Unihertzの超小型スマホ「Jelly」シリーズはクラウドファンディングでデビュー(同社ホームページより)

 そもそも純国産メーカー2社には、スマホの世界市場で社運を賭けてまで真っ向勝負するインセンティブ(動機付け)がない。ソニーは画像センサー、京セラはコンデンサーといったスマホ向け電子部品の有力メーカーでもある。アップルやサムスンと勝ち目の薄い競争をするよりも、両社に自社製の部品を採用してもらう方が簡単だし、利益率も高いはずだ。既存の国産メーカーによる「日の丸スマホ」の復権は期待できそうにない。

 唯一、国産スマホが世界で影響力を示す可能性があるとすれば、そのカギを握るのはソフトバンクグループ<9984>だろう。同社は2016年に英半導体設計大手のARMを約3兆3000億円(当時の為替レート)で買収した。ARMはスマホやタブレットなどのアプリケーションプロセッサーでは85%以上のシェアを持つ。ARMが専用設計した高性能プロセッサーを独占使用し、EMS(電子機器の受託生産サービス)事業者に量産させれば、競合他社をしのぐ高機能スマホの市場投入も可能だ。

孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長
ARMを傘下に置くソフトバンクは国産スマホの「救世主」になるか(孫正義会長兼社長、同社ホームページより)

 あながち「夢物語」ともいえない。ソフトバンクは日本だけでなく、米国でも傘下のスプリント・コーポレーションが携帯電話事業を展開している。だが、契約数シェアは日本で3位、米国では4位と下位に沈む。かつてソフトバンクが日本国内でiPhoneを独占販売してシェアを伸ばしたように、ARMの最新テクノロジーを駆使した高機能スマホをソフトバンクとスプリントへ限定供給することで新規顧客を取り込む可能性は十分にある。

文:M&A Online編集部