2020年第3四半期 TOBプレミアム分析レポート

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1.2020年第3四半期のTOB総評

TOB件数は前年同期よりも3件、今第2四半期よりも3件多い12件で、第3四半期としては2010年以降の11年間では2011年の21件、2016年の14件に次ぐ3番目(2010年、2018年と同件数)の水準だった。

2-1.TOB件数の推移と成否

第1-3四半期累計では36件と、前年同期累計の29件を7件上回っている。2019年通年実績の46件には、あと10件にまで迫っている。(図表1)

◆図表1 TOB件数の推移
(届出ベース 公開買付開始日が2020年7月1日~9月30日 非上場および不成立案件含む)

全12件中66.6%に当たる8件は成立、残る33.3%の4件は進行中となっている。第1-3四半期累計では30件が成立、1件が不成立、5件が進行中だ。(図表2)

◆図表2 TOB成否(2020年10月20日現在)

経営陣が反対する敵対的TOBはコロワイド<7616>による大戸屋ホールディングス<2705>のTOB1件で、9月8日に成立した。

2-2.MBO件数の推移

MBO(経営陣による買収)件数はTOB全体の8.3%に当たる1件だった。今第2四半期(2件)よりも1件少なかったが、第1−3四半期累計では8件とすでに前年累計の6件を上回っている。(図表3)

◆図表3 MBO件数の推移
(届出ベース 非上場および不成立案件含む)

3.2020年第3四半期で話題となったTOB

◆日本電信電話(NTT)によるNTTドコモの完全子会社化

NTT<9432>が9月29日にNTTドコモ<9437>の完全子会社化を目的にTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表。NTTは現在ドコモ株66.21%を保有しており、TOBを通じて残りの33.79%の取得を目指す。買付代金は最大約4兆2544億円。全てを取得できなかった場合は、株式併合などの手続きにより完全子会社化する。

ドコモはTOBに賛同を表明しており、TOB成立後に上場廃止となる見通し。11月16日に終了する予定。移動体通信事業者間の競争が激化するなか、NTTはドコモを完全子会社化し、経営の意思決定スピードを速める。グループ一体となって、次世代通信規格「5G」をベースにした新しいサービスの創出や料金・サービスの競争力強化を図るほか、次世代通信技術に関する研究開発も強化する。

会社名 買付会社名 目的 買付価格 公表日株価 前日プレミアム 1か月平均 3か月平均 6か月平均
NTTドコモ※買付中 日本電信電話(NTT) 完全子会社化 3900円 3213円 21.38% 37.66% 32.29% 29.53%

関連記事はこちら→総額4兆円 NTTドコモのTOB価格3900円は高いか安いか

◆コロワイドによる大戸屋ホールディングスへの敵対的TOB

コロワイドは定食「大戸屋ごはん処」を展開する大戸屋ホールディングス(HD)に対して子会社化を目的にTOBを実施した。TOBで株式32.16%を約72億円で追加取得して所有割合を51.32%に高め、経営権の掌握を狙った。大戸屋HDのジャスダック上場は維持する。

コロワイドは2019年10月、大戸屋HDの創業家から株式を取得して筆頭株主となった。これを受け、コロワイドは大戸屋HDに食材の仕込み・加工を工場で一括集中するセントラルキッチン方式の導入などのコスト削減策を提案したが、店内調理を売り物としてきた大戸屋HDは反発。6月末の株主総会では大戸屋HDの経営陣の刷新を求める株主提案をしたが否決されていた。

こうした経緯もあって敵対的TOBに発展したが、TOBは9月8日に成立した。

会社名 買付会社名 目的 買付価格 公表日株価 前日プレミアム 1か月平均 3か月平均 6か月平均
大戸屋ホールディングス コロワイド 連結子会社化 3081円 2613円 17.91% 33.72% 40.56% 41.98%

関連記事はこちら→コロワイドによる大戸屋ホールディングスに対する敵対的買収の攻防

◆伊藤忠商事によるファミリーマートの完全子会社化

伊藤忠商事<8001>は、間接保有分も含めて発行済株式の50.1%を保有するファミリーマート<8028>に対し、株式の非公開化を目的にTOBを実施。買収目的会社のリテールインベストメントカンパニー(東京都港区)を通じて全株式の取得を目指した。ファミリーマートはTOBに賛同を表明した。

コンビニエンスストア業界では、24時間営業やフードロス問題などビジネスモデルの見直しを迫られている。さらにEコマースの急拡大による消費者の購買チャネル多様化で経営環境は厳しさを増している。伊藤忠はこうした変化に機動的に対応し競争に勝ち残っていくためには、ファミリーマートを非公開化しグループ一体となって迅速に意思決定を進めていくことが不可欠と判断した。

8月24日にTOBが成立し、ファミリーマートは11月下旬にも上場廃止となる見通し。

会社名 買付会社名 目的 買付価格 公表日株価 前日プレミアム 1か月平均 3か月平均 6か月平均
ファミリーマート リテールインベストメントカンパニー(伊藤忠商事) 株式の非公開化 2300円 1754円 31.13% 23.13% 22.80% 12.03%

関連記事はこちら→【ファミリーマート】今は伊藤忠傘下だが、かつての親会社ってどこ?

4-1買収プレミアム(TOB)の推移

総プレミアム平均は25.34%と前年同期の41.98%を16.64ポイント、今年第2四半期の37.72%を12.38ポイント、それぞれ下回った。市場株価より安いディスカウントTOBが1件あったほか、1%台以下のTOBが4件あった。こうした低プレミアムTOBが半数近くを占めたため、平均が伸び悩んだ。

ポジティブプレミアム平均も29.09%と前年同期の41.98%を12.89ポイント、今年第2四半期の51.50%を22.41ポイント、それぞれ下回っている(図表4)。

◆図表4 買収プレミアムの推移
(非上場および不成立案件を除く 
2020年10月20日現在)

総プレミアム平均 ポジティブプレミアム平均*
2014年 25.40% 36.70%
2015年 29.20% 39.90%
2016年 26.36% 40.85%
2017年 23.32% 34.90%
2018年 26.65% 35.76%
2019年 32.64% 35.05%
2020年1Q 33.45% 36.84%
2020年2Q 37.72% 51.50%
2020年3Q 25.34% 29.09%

*ポジティブプレミアム平均は、ディスカウントTOBを除く

4-2.買収プレミアム(TOB)の分布水準

◆図表5 TOBプレミアムの構成比
(非上場および不成立案件を除く)

5.TOB買付総額の推移

買付総額は約6728億円で前年同期の約4340億円を55.0%上回り、今第2四半期の約3817億円を76.2%上回っている。第1−3四半期累計では約2兆6899億円と10年以降の11年間では過去最高だった2019年1-12月累計の1兆7073億円を57.5%も上回り、すでにトップが確定した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大にもかかわらず、TOB買付総額は上昇を続けている。(図表6)

◆図表6 TOB買付総額の推移
(不成立案件を除く)

買付価額のトップは8月24日に成立したリテールインベスト(伊藤忠商事)によるファミリーマートの株式非公開化を狙ったTOBの1817億4100万円。

2位は9月15日に成立したソフトバンク<9434>による同じソフトバンクグループ<9984>傘下のヤフーとLINE<3938>の経営統合に向けて実施した同社へのTOBの1591億9500万円。

3位は10月15日に成立したホンダ<7267>と日立製作所<6501>の自動車部品子会社統合の一環となるショーワ<7274>に対するTOBの1024億4800万円だった。

データ・文:M&A Online編集部

【ご利用上の注意】

※2020年7月1日から2020年9月30日に株式公開買い付けが開始された案件を集計対象としている。ただし自社株TOBは対象外である。

※プレミアム算定に採用している株価は特に断りがない限り、公表日前3カ月平均株価(終値)としている。
※プレミアム算定に非上場企業、不成立、公開買付中の案件は含まれない。

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