事業再生スキームで使用される「第二会社方式」とは
経済的に窮状に陥った企業が生き残るには、経営を再建しなければなりません。今回は事業再生でよく使われる「第二会社方式」のスキームとメリットをご紹介します。
経営危機に陥っている会社から採算性の良い事業を会社分割などによって別会社(第二会社)に分離し、旧会社を清算する手法。不採算事業や債務は旧会社に残るため、新会社の負担は軽く、経営再建が容易になるメリットがある。
2023年8月、1932年操業の老舗農産加工メーカーであるクレードル興農(札幌市)が、第二会社方式による事業再生に踏み切った。スポンサーのコープさっぽろ(同)が設立した新会社「クレードル興農」に事業を引き継ぐ。旧会社のクレードル興農は清算する。全従業員の雇用は継続し、現社長も旧会社の清算業務を終えた後に新会社に異動するという。
スポンサーにとっては債務もなく優良事業だけが残る新会社を支援することになるため、収益期待も大きく出資しやすい。ただ、新会社に資産を移転することになるので、移転手銃が必要なのに加えて、不動産取得税などのコストも発生する。
許認可事業の場合、全くの別会社となるために新たな許認可取得を迫られることも。運輸業の路線免許や日本酒(清酒)の酒造免許のように新規参入が難しい事業の場合は、新会社を設立したはいいが許認可が下りず事業ができない恐れもある。こうした業種では、第二会社方式による再生に十分な検討が必要だ。
経営危機に陥った会社を別会社に丸ごと譲渡する方式。優良事業を切り出すのは第二会社方式と同じだが、事業を引き継ぐのは新会社ではなく既存のスポンサー企業となる。スポンサー企業に事業を譲渡した形となるので、その売却資金で債権者に弁済できるため再建の合意が取りやすい。
事業の売買なので会社更生法など法的手段を必要とせず、企業ブランドの毀損(きそん)を招く「倒産」イメージを薄める効果もある。譲渡額が債務を上回る場合、オーナーなど株主が金銭的な対価を得られるのも魅力だ。
2018年12月、香港ファンドのベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)に1020億円で買収されたパイオニアなどの例がある。パイオニアは世界で初めてレーザーディスクプレーヤーやプラズマテレビを商品化した大手エレクトロニクスメーカーだったが、競争激化や市場の縮小などに伴う業績不振によりテレビや家庭用音響機器から撤退。車載機器事業に経営資源を集中したが、業績悪化に歯止めがかからず、売却による再建を選択した。
では、ビッグモーターはどの方式を選択するのか?現状では多額の不良債権を抱えているわけではなく、銀行団から借り換えを拒否された90億円の融資も自社のキャッシュで返済するなど財務面で余裕がある。そのため現在の会社を清算する必要はない。
債権放棄を伴う企業再生方式や第二会社方式では、70%以上の株式を保有する兼重宏行前社長の手元には原則として何も残らない。会社清算と同時に、株式が無価値になるからだ。一方、企業譲渡方式なら、買い手さえ見つかれば株式譲渡益がそのまま残る。オーナー企業であるだけに、ビッグモーターの事業再生型M&Aは企業譲渡方式で実行される可能性が極めて高そうだ。
文:M&A Online
関連記事はこちら
・経営危機のビッグモーター、「事業譲渡」での再生へ
・追い詰められたビッグモーター、打開策は「事業譲渡」しかない
経済的に窮状に陥った企業が生き残るには、経営を再建しなければなりません。今回は事業再生でよく使われる「第二会社方式」のスキームとメリットをご紹介します。
事業承継の方法には「親族内承継」「親族外承継」「第三者への売却(M&A)」があります。今回は事業承継の最近の動向と、各手法のメリット・デメリットを説明します。
M&Aは「会社(あるいは事業)を譲渡したい」「会社(あるいは事業)を買収したい」というニーズを持つところから始まります。ここでは中小企業のM&Aで一般的な仲介機関を利用する場合をご説明します。
今回のコラムでは、大型クロスボーダーM&Aに多い「水平統合型のM&A」について、その特徴と買収上の留意点について整理してみたいと思います。