実はこれからの日本でこそ「空飛ぶクルマ」が必要になる理由

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次世代モビリティーに革命を起こすのか?「空飛ぶクルマ」が全世界で注目されている。一部には自動車が小型航空機にトランスフォーム(変形)するモデルもあるが、ほとんどは数人乗りで自動操縦に対応する超小型航空機だ。「クルマのように気軽に乗れるパーソナル航空機」と考えれば良い。

世界中で「空飛ぶクルマ」の開発レース

日本が関係しているプロジェクトだけでも、トヨタ自動車<7203>が出資する米ジョビー・アビエーションやホンダ<7267>、ベンチャー企業のスカイドライブ(愛知県豊田市)など、大企業からベンチャーまで百花繚乱で実用化に取り組む。

2025年の大阪万博での運用開始に向けて「空飛ぶクルマ」の開発は急ピッチで進んでいる。海外でも開発競争が激化しており、自動車に代わる交通革命となりそうな勢いだ。

2025年の大阪万博で「空飛ぶクルマ」の運用が始まる(2025年日本国際博覧会協会ホームページより)

「空飛ぶクルマ」はドローンを大型化したような垂直離着陸機(VTOL)と、長距離飛行が可能な短距離離着陸機(STOL)に分かれる。飛行場のような長い滑走路は不要で、ちょっとした空間があれば、市街地を含むどこからでも離着陸ができる。

例えば大都市にはヘリポートが併設されている高層ビルが数多くあるが、それらを利用して「空飛ぶクルマ」を運用することも可能だ。道路渋滞も関係なく、地震や台風などで地上の交通インフラが壊滅的な被害を受けても、「空飛ぶクルマ」ならば稼働できる。

一方で「空飛ぶクルマ」が普及したら、墜落事故が多発して都市部では大きな被害を被るのではないかとの懸念も出ている。しかし、その心配は杞憂に終わるかもしれない。「空飛ぶクルマ」を本当に必要とするのは、都市部ではないからだ。

「空飛ぶクルマ」の日本でのニーズは「過疎地の足」

JR北海道の日高線(116.0km)やJR東日本<9020>の気仙沼線(55.3km)と大船渡線(43.7km)、JR西日本<9021>の三江線(108.1km)など、人口減少による過疎化が進む地方で鉄道の廃止が相次いでいる。すでに鉄道が廃止された地域ではバス転換されたが、旧国鉄の胆振(いぶり)線の代替バスのようにバス路線も赤字続きで廃止されるという悪循環だ。

こうした地域では自家用車が唯一の交通手段だが、急速な高齢化で自動車を運転できない人口が増えており、モビリティー対策が急務になっている。国や自動車メーカーが自動運転車の開発に力を入れてるのも、そのためだ。

では、自動運転車が実用化されれば、過疎地のモビリティー対策は万全なのか?実はそうではない。人口減少で税収が減ると、国や県、市町村が道路網を維持するのは難しくなる。鉄道廃止では「1日100人も乗らないような鉄道が必要なのか?」と議論されたが、いずれ「1日100台も自動車が通らない道路が必要なのか?」との議論が出てくる。

人口減少が進めば過疎地では民家が孤立するかのように点在し、そこから医療や行政、商業施設などへのアクセスはより長距離になるだろう。国道などの幹線を除いて道路整備が放棄されるようになれば、過疎地の住民は移動手段を失い、生活できなくなる。

そこで「空飛ぶクルマ」が普及すれば、道路がなくても移動可能だ。離着陸場になる空き地なら、自宅近くにいくらでもある。過疎地では大部分の土地が山林か河川で、自動操縦の「空飛ぶクルマ」が墜落などの事故が発生しても地上で巻き添えになるリスクも低い。

夢も希望もない話のようだが、「空飛ぶクルマ」は道路と違って最短距離を移動でき、速度も鉄道以上に速い。移動時間の大幅な短縮が可能となり、生活やビジネスの拠点を過疎地に移す動きも期待できるだろう。日本において「空飛ぶクルマ」は「過疎地の足」であり、人口減少社会におけるモビリティーの「最後の砦」なのだ。

文:M&A Online編集部

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