日産は本当に「三菱自動車との資本提携を維持」するのか?

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日産自動車<7201>が2020年11月16日、三菱自動車<7211>株式の売却を検討している報道について「資本関係の見直しを行う予定はありません」とのコメントを発表した。が、それを「額面通り」に受け取る関係者はいない。

三菱自工株売却は不可避

日産はその前日の12日に営業損失1588億円、当期純損失3300億円の2020年度上期(4-9月)連結決算を発表。三菱自動車株売却はこの赤字決算を受けて、同社幹部がリーク(漏洩)したものとみられ、確度が高い情報といえる。株式売却を正式決定はしていないものの、少なくとも経営上層部で検討が始まっているのは事実だろう。

日産社内では三菱自動車株売却の検討が進んでいる可能性が高い(同社ホームページより)

コメントでは「アライアンスは、これまで以上に、各社の得意分野に集中し、それぞれのアセットを最大限活用していくことが、各社の中期計画達成のための必須条件」としている。具体的には「軽自動車の開発・生産だけでなく、プラットフォームの共用化、パワートレインの共通化など」を挙げている。

しかし、これらはいずれも三菱自動車との資本関係を維持するインセンティブ(誘因)にならない。軽自動車の開発・生産は商品融通なので資本関係がなくてもできる。

事実、2017年まで日産は資本関係のないマツダ<7261>から商用車「バネット」のOEM(相手先ブランド生産)供給を受けていたし、過去に軽乗用車の供給を受けていたスズキ<7269>からも軽商用車の供給は続いている。三菱自動車との資本提携はOEM相手の選択肢を狭めている側面もあり、メリットばかりとも言えない。

日産・三菱自の資本提携にシナジーなし

プラットフォーム(車台)の共用化とパワートレインの共通化も「販売台数が自社より多い」か「技術水準が自社より高い」のいずれかを満たす相手でなければ、新車開発の自由度が大幅に制約されるためにかえって足を引っ張ることになる。

日産にとって三菱自動車はいずれの条件も満たさない。1990年代後半以降、日米欧自動車メーカーの間でプラットフォーム共用化やパワートレインの共通化が進んでいるが、両方の条件を満たした場合ですら成功事例はほとんどない。

現在の日産にとって三菱自動車との資本提携はシナジー(相乗)効果がほとんど期待できず、「憎きカルロス・ゴーン前会長が勝手に決めた話」に過ぎない。

一方、三菱自動車にとっても目に見える成果はなく、ゴーン前会長とのトップ交渉で資本提携を決めた益子修前会長も8月に亡くなった。三菱自動車の経営支援どころではない赤字企業の日産との資本提携にしがみつく必然性もなく、引き留める有力者もいないとなれば資本関係の解消は時間の問題だろう。

三菱自動車にとっても日産と資本提携するメリットは小さい(5月の新アライアンステレビ会見で、日産ホームページより)

とはいえ、日産が所有する三菱自動車株の引取先がない。トヨタ自動車<7203>やホンダ<7267>は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の経済危機を受けて急降下した業績が回復しつつあるとはいえ、国内乗用車メーカーを傘下に入れるメリットがない。

頼みの三菱グループも簡単に手を出せず

三菱グループに引き取ってもらうのが順当だろうが、今はそれどころではなさそうだ。「古巣」となる三菱重工業<7011>は赤字に苦しみ、「スペースジェット」の開発凍結などで三菱自動車以上に厳しい状況だ。

古巣の三菱重工業は航空機開発凍結などで自動車事業の引き受けどころではない(三菱航空機ホームページより)

三菱商事<8058>は伊藤忠商事<8001>との間で熾烈なトップ争いを繰り広げている。2017年3月期決算で伊藤忠から総合商社での最終利益トップの座を奪い返した三菱商事の垣内威彦社長は「首位に返り咲いたら二度と譲らない」と対抗心をむき出しに。

6月2日には伊藤忠の時価総額が3兆7649億円と三菱商事の3兆6964億円を上回り、総合商社で初めて首位となった。このデッドヒートの最中に業績や株価を引き下げかねない三菱自動車株の引き受けは難しい。

三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>の2020年度上期(4-9月)連結決算ではコロナ禍による信用リスク増で与信費用がかさみ、純利益が前年同期比34%減の4008億円の大幅減益に。銀行にとっては逆風となるマイナス金利が続く中、グループ企業が三菱自動車株を引き取る資金の手当すら厳しい状況だ。

残るは外国車メーカーだが、欧米企業が三菱自動車に手を伸ばす可能性は低い。東南アジアの商用車市場で存在感がある同社だけに、株の引き取りに応じるとしたら中国車メーカーだろう。だが、政府は国産車メーカーが中国資本の傘下に入ることに難色を示しているようだ。

日産は菅義偉首相のお膝元である神奈川県に本社を置き、国による経営支援を期待していることから、政府の意向に逆らうわけにもいかない。日産にとっては、三菱自動車株売却のタイミングを辛抱強く待つしかなさそうだ。

文:M&A Online編集部