トヨタのEV急拡大で、万全だったサプライチェーンに「黄信号」

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トヨタのEV組立工場(Photo By Reuters)

トヨタ自動車<7203>が米子会社のToyota Motor North America, Inc.(TMNA)を通じ、車載電池世界2位の韓国LGエナジーソリューションとの間で、電気自動車(EV)用リチウムイオン電池の供給を受けると発表した。日本を除く先進国や中国で進むEVシフトに乗り遅れないためだが、図らずも系列外からの調達が急増する格好だ。

電池調達先の多くは「系列外」

LGは同社ミシガン工場内に約4兆ウォン(約30億ドル)を投資して、2025年からトヨタ専用の電池セルとモジュールの生産ラインを稼働し、年間20GWh分の車載電池を供給する。LG製の電池はトヨタケンタッキー工場(TMMK)で同年から量産する予定のスポーツ多目的車(SUV)などに搭載されるという。

トヨタはLGの他にも、世界トップの中国・寧徳時代新能源科技股份有限公司(CATL)や同3位でEV大手でもある同・比亜迪股份有限公司(BYD)、同4位のパナソニック<6752>から車載電池を調達することが決まっている。このうちトヨタの一次協力企業で組織する部品系列団体「協豊会」に加盟しているのはパナソニックだけだ。

つまりEV電池の大半を系列外のメーカーから調達することになる。日産自動車<7201>やホンダ<7267>が「脱系列」へ動く中で、トヨタが堅牢(けんろう)な系列企業を維持してきたのには理由がある。第一に部品の開発や生産、品質維持、トヨタ生産方式に合致した「必要な時に必要な数だけ」を搬入する物流などで、協力企業がトヨタと歩調を合わせるための強い結びつきが必要なこと。

第二にコスト削減のためには徹底的な工程や収益の分析が必要で、系列外では社外秘として教えてもらえない内部情報を入手しやすくすること。そして部品調達においては、最優先でトヨタに供給してもらうことだ。系列外からの調達となると、これらの「縛り」をかけることはできなくなる。

系列に支えられたトヨタの「強み」はどうなる?

新型電池の開発・生産計画、品質保証、物流については、系列外のメーカーがトヨタの要請に無条件で対応してくれるとは限らない。電池の調達価格が適正なのか調べようにも、LGやCATL、BYDが電池生産のコスト構造や生産プロセスの詳細をトヨタに明かすとは考えにくい。EV電池ではコスト削減の余地を指摘して値引きを引き出すトヨタ流の価格交渉力を発揮するのは難しくなる。

併せてEV生産に乗り遅れたトヨタは自動車メーカーとしては世界最大手でも、EVメーカーとしては後発の中小メーカーにすぎない。EVメーカーだけを相手にしている車載電池メーカーにとっては、それほど重要ではない顧客だ。EV電池の需要拡大と生産不足が顕著になれば、供給を後回しにされる可能性すらある。

かつて日本家電メーカーがコスト削減のために国内の系列企業を切り捨て、アジア企業に生産を委託したところ、思うようにコントロールできず商品競争力を失った。トヨタもその恐ろしさを知っている。だからグループ企業の豊田通商と共同で米ノースカロライナ州に車載電池工場を建設しており、2025年に稼働する予定だ。

ただ、こうした自動車部品の「内製化」は、どうしてもコストが高騰してしまう。BYDのようにEVと車載電池の両方を製造・販売するのならば、内製化とコストダウンは両立できる。だが、LGからの調達が決まっても、トヨタが2026年の目標とする年産150万台の半分しかメドがついていない。BYDのように車載電池を外部販売する余裕はない。

EVで最も高価な部品は車載電池だ。それが系列外からの調達となると、トヨタが得意とするコストダウンは難しくなる。トヨタ車に最適な車載電池の開発も、系列外企業相手では苦労するはずだ。さすがに明言はしないだろうが、「そんな面倒くさいことを要求するのなら、他社を当たってもらえませんか?電池の買い手はいくらでもいるんです」が、系列外車載電池メーカーの本音なのだ。

文:M&A Online

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