株式を誰が(どの会社が)どれだけ保有しているかを知ることができる「大量保有報告書」。前回(記事はこちら)は例を挙げながら、報告義務が発生する際の流れについて概略を見ていきました。今回は保有割合の計算方法や対象となる株式とは何か、また機関投資家が提出する特例報告制度について、わかりやすく解説します。
5%ルールの対象となる会社は、公開買付制度(TOB)の対象よりも狭くなっています。5%ルールは一般投資家が参加する取引所の透明性向上を目的としているため、範囲の対象を「流通性の高い株式等の発行会社」としています。
具体的には、東京証券取引所(東証)、名古屋証券取引所(名証)、札幌証券取引所(札証)、福岡証券取引所(福証)に上場している企業です。
5%ルールは議決権を中心に考えられているため、株券以外のいわゆる「潜在株式」も対象とされています。会社を買収しようとする買収者にとっては、潜在株式も必要なタイミングで株式に転換される可能性があるためです。
潜在株式の代表的な例としては「新株予約権付社債*」が挙げられます。新株予約権付社債とは、行使期間中であれば、一定の条件のもとで発行会社の株式を取得できる権利(株式予約権)の付与された社債です。(*).新株予約権付社債の代表例は、転換社債(CB、Convertible Bond)です。これは満期時点で現金で償還されるか、株券で償還されるかを保有者が決めます。
対象となる株券等を具体的に羅列すると以下になります。いずれも株券か株券に転換可能な有価証券です。
・株券(ただし、議決権のない株券は対象外)
・投資証券等
・新株予約権証券
・新株予約権付社債券
・対象有価証券カバードワラント
・株券預託証券
・株券関連預託証券
・株券信託受益証券
・株券関連信託受益証券
・対象有価証券償還社債
・他社株等転換株券
大量保有報告書を提出する義務がある者は、発行済株式総数に占める保有株式数の割合が全体の5%を超えている者(5%以下は除外される)です。また、名義の如何に関わらず、議決権または処分権を有する「実質的な保有者」をいいます。
報告の義務の対象となる株式等の入手方法は問われません。市場内の取引以外、市場外の相対取引以外に、贈与、相続、代物弁済、交換、無償交付等売買以外の方法も含め、あらゆる方法が対象です。
潜在株式を保有していない時は、
自己保有分の株式数
保有割合 = ────────────────
発行済株式等総数
と単純な割り算です。
潜在株式を保有している時は、潜在株式数を分母、分子に足します。これは潜在株式をすべて株式に転換した場合を想定しているためです。
自己保有分の株式数+潜在株式数
保有割合 = ────────────────────────────────────
発行済株式等総数+自己保有分の潜在株式数
さらに共同保有者が存在する時は、共同保有者分も加算して
自己保有分の株式数+潜在株式数共同保有者の株式数+潜在株式数
保有割合 = ─────────────────────────────────────────────────────
発行済株式等総数+自己保有分の潜在株式数共同保有者の潜在株式数
と計算します。
最後の式だけを見ると複雑そうですが、順番に見ていけば理解しやすいと思います。
発行済株式総数は、原則としてその日における発行会社の発行済株式総数ですが、はっきりしない時は直前期の有価証券報告書などに記載されている「発行済株式総数」を採用しても良いことになっています。
「保有」とは、単に所有している場合に限らず、次のようなケースも含まれます。
・他人名義や架空名義で買い付けた株券
・買付後にまだ名義書換を行っていない株券(逆に、売却後にまだ名義書換が行われていない株券は含まれない)
・売買などの契約で、実質的に入手することになっているが、まだ引き渡しを受けていない株券等(信用取引で買建てている時など)
・信託契約における実質的な保有
委託側か受託側かのどちら側に議決権があるかは信託契約書の条項で判断します。(投資信託などではファンド側に実質的な議決権があると通例みなされます)
・一任契約での受託者の保有
投資一任契約に基づき投資している投資顧問会社や、未成年者が株券を保有している場合の親権者
逆に、以下のように所有はしているものの、保有していることとはみなされません。(金商法27条の23の4、株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令第4条)
・売買などの契約で、実質的に売却することになっているが、まだ引き渡しをしていない株券等(信用取引で売建てている時など)
・証券取引所などの金融商品取引業者が信用取引により一時的に保有する株券等
・証券会社、金融機関などが引き受け、売り出しのために一時的に保有する株券等
・証券会社が売買の決済として一時的に保有する株券等
・バスケット先物取引により間接的に保有する株券等
具体的には以下のように日経225先物取引やTOPIX先物取引によって間接的に保有している株式は含めなくても良いということになります。
・厚生年金基金、企業年金連合会、年金積立金管理運用独立行政法人が保有する株券以外の株券等 (政府系基金が保有する新株予約権付社債や転換社債を除く)
・独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構が簡易生命保険資産の運用として保有する株券以外の株券等 (旧郵便局の簡保が保有する新株予約権付社債や転換社債を除く)
・法人の代表者がその代表権・代理権に基づいて保有する株券等 (実質的には法人が保有しているとみなすもの)
・会社の役員又は従業員が他と共同して当該会社の株券等を一定の計画に従って(1回の拠出額が100万円未満)取得し、買付を証券会社に委託し信託会社が保有している株券等 (会社の役員や従業員が持株会を通して購入した株券等のこと。一般的な自社持株会は大量保有報告をしなくてもよい)
株式等を取得、譲渡又は議決権の行使等を共同して行う(この合意は文書以外に口頭も有効とされている)場合、「共同保有者」とみなし、株券等を連名もしくは個別提出の場合は加算したものを記載し提出しなければならないとされています。
この共同保有者には、「実質共同保有者」と「みなし共同保有者」の2種類があります。
「実質共同保有者」
・会社とその会社のオーナー経営者が同一の株券等を保有している場合
・株券等を民法上の共有により保有する場合
・取引先を集めて、安定株主工作のために、株式の取得を依頼した場合
・株主総会での議決権行使について話し合いを行った場合
・共同して株主総会における提案権・帳票閲覧権などを行使する場合
「みなし共同保有者*」
・夫婦や、50%超の資本関係がある親子会社及び兄弟会社等
(*)なお、資本関係上ではみなし共同保有者であっても、以下に該当する場合は、適用除外とされています。(大量保有布令6)
・単体ベースの株券等保有割合が0.1%以下である者(内国法人の発行する株券等)
・発行済み株式または発行済み投資口総数の1%相当以下である者(外国の者の発行する株券等)
次に、機関投資家が提出する「特例報告制度」について解説します。
日常業務として株券等の売買を行う機関投資家にとっては、毎日、保有割合を計算し、報告書を提出するのでは事務作業が大変です。そこで、一定の条件を満たせば、毎日でなく2週間に1度の保有割合の判定と報告で良いことになっており、これを「特例報告制度」といいます。(金商法27条の26第1項)
その条件とは以下のとおりです。
・機関投資家(金融商品取引業者(第一種金融商品取引業者および投資運用を行う業者に限る)、銀行、信託会社、保険会社、農林中央金庫、商工組合中央金庫、銀行等保有株式取得機構、預金保険機構、国及び地方公共団体など内閣府令で定める者)であること
・投資目的が純投資であること(発行者の事業活動に重大な変更を加え、または重要提案行為等を行うことを保有の目的としないこと)
・基準日の届け出を行っていること
・保有割合が10%以下であること(保有割合が10%を超えると一般の報告となり、毎日保有割合を判定することになります。)
なお、特例報告の基準日は、以下のどちらかを選んで事前に書面で届け出をすることになっています。
(1).第2月曜日と第4月曜日(または第5月曜日)
(2).各月の15日と末日
以上、報告義務に関する基本的事項について解説しました。特例報告の基準日などを意識して閲覧してみると、また違った観点からの発見が得られるのではないでしょうか。
次回は提出方法の詳細や、大量保有報告書を提出しなかった場合の罰則規定について取り上げます。記事はこちらからどうぞ
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文:M&A Online編集部
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