COP26で右往左往の国産車メーカーがどこか「ズレてる」理由

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COP26ではガソリン車に対する風当たりが一気に強まった(Photo By Reuters)

「ガソリン車を全廃すると言われても…」国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)での議論に日本車メーカーが右往左往している。エンジン車で窒素酸化物(NOx)排出削減や燃費改善などの環境対策で世界をリードし、シェアを拡大してきた日本車メーカーだが、二酸化炭素(CO₂)など温暖化ガス削減では存在感を示せていない。

「自動車だけ頑張っても意味はない」は本当か?

マツダ<7261>の丸本明社長は11月10日に開いた決算会見で「目指すべきはカーボンニュートラル」としながらも、「電力の化石燃料比率が高い市場でEVを増やしたところで、結果的にCO₂が増えてしまう」と指摘。スズキ<7269>の鈴木俊宏社長も「メーカーがEVを開発するだけでなく、充電インフラを含めた政策をしっかりやっていかないといけない」とEV一辺倒の流れを牽制(けんせい)している。

要は「自動車業界だけが頑張っても意味がない」ということだが、本当にそうか?確かにEV用の電力を化石燃料で発電していては、CO₂削減も限定的に思える。だが、燃料から動力へのエネルギー変換効率は発電所からの送電ロスを差し引いても、EVの方がハイブリッド車(HV)を含むガソリン車よりも高い。つまり「環境にやさしい」のだ。

化石燃料による発電でもそうなのだから、これから再生可能エネルギーの比率が高まると日本車メーカーのトップが主張する「自動車業界だけが頑張っても」という主張は、ますます説得力を失う。それが見えているから、日本車メーカーは「環境に後ろ向き」と批判されるのだ。

すでに「潮目」は変わった

COP26では2040年までに新車販売を全てCO₂を排出しないEVなどの「ゼロエミッション車」へ切り替える宣言に20カ国以上が合意。日本や巨大自動車市場を擁する米中は合意していないが、米ゼネラル・モーターズ(GM)が賛同に回った。最近までガソリン車規制の急先鋒だったGMが、完全EVシフトに方向転換したのは大きな潮目の変化だ。

HVの普及で1990年代後半から環境車(エコカー)でトップを独走してきたトヨタ自動車<7203>の長田准執行役員は「トヨタはEVで決して劣っていないのに反対派と言われる」とこぼしている。だが、その言葉とは裏腹に、2020年のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)*の世界販売台数は前年の10位から17位へ後退している。世界最大の自動車メーカーにもかかわらずだ。さらには地球温暖化に懐疑的な米共和党議員に対するロビー活動も報じられており、「反対派」と言われる理由は十分にある。

日本車メーカーが厳しいCO₂排出規制に後ろ向きなのは、HVを含む「ガソリン車でのCO₂対策」すなわち燃費競争で圧倒的な勝利を収めたからだ。第一にその成功体験から抜け出せない、第二にそれにより得た高いシェアという「既得権益」を手放したくないのである。こうした日本車メーカーの主観的バイアス(偏向)が、世界の流れとの感覚的な「ズレ」を生んでいる。

これは世界中のどの企業でも起こってきたことで、「これだから日本企業はダメだ」と断罪はできない。とはいえ、NOx規制や燃費競争で過去の成功体験から抜け出せず、それまでの既得権益にしがみついた米ビッグスリーは日本車との競争に破れて次々と経営破綻に追い込まれた。日本車メーカーにも同様の危機が迫っている。

*外部から電源をつないで充電できるHV。HVに比べるとバッテリー容量が大きく、電力のみでの航続距離が長い。


文:M&A Online編集部

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