競争過熱の全固体電池、EV用は「期待はずれ」に終わるかも

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電気自動車(EV)用の電池として本命視されている全固体電池。日本ではトヨタ自動車<7203>が2020年代前半の実用化を目指し、独フォルクスワーゲン(VW)は電池ベンチャーの米クアンタムスケープと共同開発中で2024年をめどに量産に入る予定だ。「全固体電池の時代」は、本当に訪れるのか?

燃料電池車の「二の舞」に?

この両社以外にも日産自動車<7201>が2020年代後半、独BMWが2030年までに全固体電池車の実用化を計画するなど、参入メーカーは目白押しだ。今後10年以内に全固体電池搭載EVの時代がやって来そうだが、思惑通りに実用化できる保証はない。

実は20年前に同様のブームがあった。燃料電池車(FCV)ブームだ。EVの弱点として挙げられていた充電時間の長さや航続距離の短さを克服する技術として注目された。FCVは純水素のほか、水素への改質が可能な高品位ガソリンやエタノールを充填すれば、直ちに発電して走行できる。タンクに十分な容量があれば、バッテリー頼みのEVよりも長距離走行が可能という触れ込みだった。

2000年になるとFCVは「次世代環境車の大本命」と目され、世界中の自動車メーカーが開発に乗り出す。日本でもトヨタやホンダ<7267>、日産、マツダ<7261>、三菱自動車<7211>、スズキ<7269>、ダイハツなどがFCVの試作車を開発した。

マツダが2001年に発表した燃料電池車(同社ホームページより)

2001年1月には経済産業省が「2020年までにFCVを約500万台導入する」目標を掲げている。だが、現実には2020年時点で市販されているFCV乗用車はトヨタ「MIRAI」、ホンダ「クラリティ フューエル セル」、韓国の現代自動車「ネクソ」の3車種のみ。同年のFCV世界販売は約9000台にすぎなかった。

すでに自動車業界でFCVは「次世代環境車の大本命」の地位から脱落し、代わって全固体電池車がブームとなっている構図だ。全固体電池が燃料電池の二の舞にならないという保証はない。実際、全固体電池は燃料電池との共通点が多いとの指摘もある。

実験室では高性能でも…

実は両方とも新しい技術ではない。FCVの実験車第1号が誕生したのは1966年のこと。米ゼネラル・モーターズ(GM)が開発した「Electrovan」がそれ。液体水素を燃料に、航続距離は240km、最高時速は110kmだったという。

全固体電池も1990年代に最初の研究開発ブームが起こっている。当時はペースメーカーのように絶対に液漏れを起こしてはいけない機器向けの小型電池として注目されたのだ。その後、ゲル状の電解質を利用したポリマー電池が普及し、全固体電池の研究開発ブームは一旦終わった。

EVで全固体電池を利用すればリチウムイオン電池に比べて航続距離が最大2倍、発火事故や電池の劣化も起こりにくい。しかも、わずか15分で全体の80%の充電ができるという触れ込みだ。これらについても「実験室レベルでの話で、量産化で実現するのは難しいのではないか」との指摘も根強い。

現時点で発表されている全固体電池は、小型電池で強みを発揮するものがほとんど。EVを動かすような大出力・大容量タイプで、こうした優れた特性を再現できるかどうかは未知数だ。

村田製作所が発表した全固体電池、高性能だが極めて小さい(同社ホームページより)

米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、トヨタが2017年に発表した全固体電池について「口では何とでも言える。サンプルを持って来て、私たちか第三者の研究機関で検証させてくれ」とこき下ろした。マスクCEOは以前にも、トヨタが究極のエコカーとしていたFCVを「水素社会など来ない」と批判している。

トヨタは東京オリンピック・パラリンピックで全固体電池車の試作モデルを公開する予定だ。「全固体電池車ブーム」に踊らされず、先ずはその性能を見定めてから全固体電池の将来性を判断しても遅くないだろう。

文:M&A Online編集部