日本の軽EVが「生き残る」ためには何が必要なのか?

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「日本にとって、カーボンニュートラルに進む本当にエポックメーキングな日になる。2022年を電気自動車(EV)元年と我々は受け止めている」日産自動車<7201>の星野朝子副社長は5月20日に開いた同社初の軽EV「サクラ」の発表会で、同社の意気込みを語った。だが、売れないことには始まらない。2010年に世界に先駆けて普通車EV「リーフ」を投入しながら、グローバルな「EVレース」で後塵を拝しつつある日産は、軽EVで再びレースの先頭集団に復帰できるのか?

世界初の量産EV「i-MiEV」の反省で低価格に

「サクラ」の兄弟車である「eKクロスEV」を発売した三菱自動車<7211>も事情は同じだ。同社は2009年に世界初の量産型EVとなる軽規格の「i-MiEV(アイ・ミーブ)」を発売したが、「リーフ」以上に販売で苦戦した。いずれも価格が高すぎたのが「敗因」とされ、両社はその反省から低価格軽EVの「サクラ」と「eKクロスEV」を世に送り出したのである。

初代「i-MiEV」よりも150万円も値下げした三菱自動車の「eKクロスEV」(同社ホームページより)

残念ながら、この2モデルはEVの普及に弾みをつける「起爆剤」にはならないだろう。一言でいえば「中途半端」なのだ。まずは価格だ。「i-MiEV」の価格が398万円と高すぎたため、新たに投入した2モデルは「サクラ」が239万9100円から、「eKクロスEV」が239万8000円からに抑えた。

だが「i-MiEV」の価格はマイナーチェンジの度に値下げされ、2016年12月に発売された「M」グレードでは227万円と、新たに投入された2モデルよりも安い。それでも売れなかった。「サクラ」と「eKクロスEV」の航続距離は180kmと「M」グレード(120km)の1.5倍だが、それだけでヒットするのは難しいだろう。

軽自動車でも最も売れているホンダの「N-BOX カスタム」の価格帯は144万~227万円、2番人気のスズキ「ハスラー」で105万~183万円だ。「サクラ」と「eKクロスEV」は補助金を受ければ180万円で購入できるのがセールスポイントだが、ガソリン車に対抗するにはあと30万円安い150万円に抑える必要があるだろう。

「環境にやさしいEVなのだから、少しぐらい高くても意識の高いユーザーなら購入してくれる」と考えるのは甘い。日常的に走行する道路が狭いなどの物理的な制約がない限り、ユーザーが軽を選ぶ理由は「価格」だ。「環境意識の高いユーザー」にアピールするのなら、軽自動車というセグメントを選んだのは誤りではないか。

軽EVは「極めて難しい」市場

確かに現時点でガソリン車よりも車両価格が高く、使い勝手も良くないEVを選ぶのは「環境意識の高いユーザー」だ。しかし、そうしたユーザーの多くは高所得者層で、EVを購入するのなら普通車クラスのEVを選ぶ。「リーフ」が「i-MiEV」よりも売れたのは、そうした理由だ。

EV世界最大手の米テスラが高級モデルからスタートし、より低価格のモデルを追加したのもそのため。最廉価版の「テスラ3」ですら579万円する。日産が投入する「アリア」は539万円からだが、今EVで「勝負」をかけるとしたら、こうした500万円台以上のクラスだろう。

軽EVが「環境意識の高いユーザー」以外の一般ユーザーに受け入れられるためには、価格が重要なのだ。東京都など国とは別の独自の補助金が支給される自治体では、「サクラ」と「eKクロスEV」の実質価格が150万円を切る。こうした「アンダー150万円」地域での売れ行きが試金石だ。

それでも売れないとなれば、軽EVは100万円に近づかなくてはユーザーに受け入れられないということになる。最もコスト高の部品である電池を、高価なリチウムイオン電池からニッケル水素電池、あるいは鉛電池に変えるなどの大胆なコストダウンが必要になるだろう。

性能はリチウムイオン電池よりも見劣りするが、軽ユーザーが最重要視するのは価格。先ずは車両価格を引き下げないことには、お話にならない。海外での販売が難しい国内専用の軽自動車規格では、量産効果も期待できないという弱点も。いずれ普通車EVが普及して電池やモーターなどの主要部品が値下がりすれば、軽EVにも勝機が見えてくる。それだけに軽EVでのチャレンジは、時期尚早だったかもしれない。

文:M&A Online編集部

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