トヨタ自動車<7203>が11月1日に発表した2022年9月中間決算で、営業利益、当期利益ともに大幅な減益となった。原因は「円安」だ。これまで「円安はトヨタのような輸出企業に有利」と言われており、その代表格がトヨタだ。なぜトヨタは空前の円安にもかかわらず、大幅減益に陥ったのか?
トヨタの9月中間連結決算によると、売上高こそ前中間期比14.4%増の17兆7093億円と過去最高を更新したものの、営業利益は同34.7%減の1兆1414億円、当期利益は同23.2%減の1兆1710億円と、大幅に減少した。半導体不足による生産停滞はあったものの、「円安効果」で売上高は増加している。
本来なら売上高同様、「円安効果」で円建ての利益も増加するはずだった。トヨタはドルに対して1円の円安で約450億円も営業利益を押し上げると言われてきた。2021年4−9月の平均為替レートは1ドル=110円、今年4−9月は1同134円と24円の円安に。円安効果による増益額は約1兆円となり、本来ならトヨタの営業利益は2倍近いはずだった。
しかし、トヨタによると円安による増益効果は5650億円にとどまった半面、円安による資材やエネルギー価格の高騰などでコストが7650億円も増加、原価改善や営業面の努力も及ばなかった。「円安効果」がマイナス方向に働いてしまったわけだ。
これまでの「円高耐性」を高めるための経営戦略が、円安メリットを解消している影響も大きい。トヨタのグローバル生産は2022年11月の見通しでは国内25万台、海外55万台で、海外生産比率は68.7%と3分の2を超えている。生産コストの多くが海外で発生するため、円安による業績押し上げ効果が小さくなっているのだ。
ソニー<6758>も同9月中間決算で売上高は同9.4%増、営業利益も8.8%増と増収増益だったが、急激な円安にもかかわらず前年同期比の成長率はそれぞれ4.3ポイント減、2.7ポイント減と伸び悩んでいるのも同様の事情がある。
トヨタですら円安の「負の側面」から逃れることができなかっただけに、輸出企業の「円安待望論」に期待していた投資家も動揺している。2日の東証日経平均株価は3営業日ぶりに反落、祝日明けの4日には463円安と大幅続落に終わった。
特に気になるのは本来なら円安ドル高のメリットが大きい北米での減益が大きいことだ。今回の「トヨタショック」で明らかになったのは、輸出産業にとっても円安には「限度」があるということ。トヨタの業績で見れば、昨年の同110円程度が「心地よい円安」であり、同130円を超えると「危険な円安」となることが明らかになった。
現在は政府による為替介入もあり円安も一服しているが、それでも145円と「危険な円安」ゾーンに入ったままだ。このレベルの円安が続けば、2022年度下半期のコスト負担はさらに増加することになる。日本企業は戦後初めて「円安リスク」に向き合った。
自国の通貨を投入して「火消し」ができる円高と違って円安の解消には外貨が必要なだけに、政府や日銀の介入効果は期待できない。トヨタはじめとする輸出産業は、値上げによるコスト吸収を急ぐ必要がある。円安局面でもあり、海外の値上げは円安効果で大きな問題にはならないかもしれない。
難しいのは国内向けの製品値上げだ。トヨタは2022年9月に「ハリアー」の一部改良で、10万8000円から13万8000円の値上げに踏み切った。今後も他車種でも値上げが続くと見られるが、日本の平均賃金はそれほど上昇しておらず国内販売には悪影響が懸念される。
しかも、電気自動車(EV)で中国車や韓国車の日本上陸も本格化する見通しで、日本車の値上げを機に輸入EVにシェアを奪われる可能性もある。少し前までは考えられなかったことだが、円安がわが国製造業の大ピンチを招くリスクは増していると言えそうだ。
文:M&A Online編集部
関連記事はこちら
・トヨタ「超コスト削減」で系列部品メーカーのM&Aにアクセルか
・円安は追い風、海外で「高級ブランド化」が期待される国産品とは