ついに日産自動車<7201>が念願だった仏ルノーからの出資比率引き下げを勝ち取った。1月30日に発表した声明によると、ルノーは日産株の28.4%をフランスの信託会社に預けて持ち株比率を15%に引き下げる。これにより両社の持ち株比率は同じとなり、同様に議決権を行使できる。まさに「ハッピーエンド」だろう。ただし、日産がルノーと完全に縁を切るつもりならば、だ。
かつては日産との経営統合に執念を燃やしていたルノーだが、もはやその熱は冷めている。「来たるべき電気自動車(EV)時代に日産は必要だ」との指摘もあるが、それは2010年代までの話だ。EV世界販売台数で2020年に日産は前年から7ランクダウンの14位に転落した一方、ルノーは6ランクアップの7位に上昇した。もはやEVではルノーが日産を凌駕(りょうが)しているのだ。
日産にとって不幸だったのは、世界に先駆けて発売したEV「リーフ」が、カルロス・ゴーン元会長主導で開発されたこと。販売が伸び悩んだのに加え、ゴーン元会長が2018年に逮捕されると「ゴーン憎し」でEVの新規投入が進まず、世界のEVシフトの流れから取り残されてしまった。もはやルノーにとってEVで日産から学ぶものは何もない。
これはルノーがスピンオフさせるEV専業新会社の参加企業を見ても一目瞭然だ。EV新会社には米半導体大手クアルコムが出資し、次世代車開発では米グーグルと連携する。自動運転車で要となる先進運転支援システム(ADAS)の技術流出を懸念する日産は、共同開発した知的財産の取り扱いに神経質になっている。
だが、自動運転技術ではその頭脳となる半導体や画像処理技術、ビッグデータの取り扱いで、クアルコムやグーグルが日産を先行する。「リーフ」同様、自動運転技術でも日産のADASは時代遅れになりつつある。ルノーとしては「どうでもいい技術」なのだ。EVや自動運転技術の急速な進歩で、ルノーが日産を引きとめる必要はなくなった。
かつて日産は巨額の連結利益と配当でルノーにとっての「金のなる木」だったが、売上高営業利益率はここ3年間の平均で3.26%と低迷している。株価も倒産が囁かれ、ルノーが出資した1999年3月当時の463円を10円も下回る453円台に沈んでいる。日産に対する株式市場の期待も小さく、今後も値上がりは期待できそうにない。
つまり、ルノーが日産株を保有し、経営支配を続けるメリットはなくなったのだ。マツダ<7261>と米フォードや三菱自動車<7211>と独ダイムラー、スズキ<7269>と米ゼネラル・モーターズ(GM)など、海外自動車メーカーとの資本提携で出資比率を引き下げた事例では、すべて数年のうちに資本・業務提携が完全に解消されている。「出資比率の引き下げが縁の切れ目」なのだ。
ルノーと日産の資本関係も、遠からず「白紙」に戻るだろう。日産は単独で生き残りを図るのか、それとも別の資本提携先を探すのか、遠からず決断を迫られるはずだ。ただ、EVで完全に取り残された日産に手を差しのべる自動車メーカーは少ないだろう。エンジンで細々と生き残るため、三菱自動車を含めた国産車メーカーとの「縮小均衡合併」ぐらいしか選択肢はなさそうだ。
文:M&A Online編集部
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