政府が打ち出す「ガソリン車販売廃止」でハイブリッド車も消える

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政府が2030年代半ばにガソリン車の販売を廃止する方向で調整を進めていることが分かった。規制施行後は「電動車」しか販売できないようにする方針で、経済産業省が窓口となり自動車業界との調整に入っているという。

ガソリンスタンドが消えれば、HVも消える

「電動車」には電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)のほか、既存のハイブリッド車(HV)も含まれる。トヨタ自動車<7203>や日産自動車<7201>、ホンダ<7267>など、日本車メーカーの多くは「電動車」のHVを量産しており、全く問題はないようにみえる。

1997年に発売したトヨタ「プリウス」以来、ハイブリッド車は「日本のお家芸」となった(同社ホームページより)

しかし、ガソリン車の販売廃止でHVも「道連れ」になるのは避けられない。なぜか。

2030年代半ばにガソリン車販売が廃止されれば、政府が「エコカー」と認めたところでHVを走らせるのは難しくなる。それどころかガソリン車の販売廃止を待たずして、HVは「消滅」しているかもしれない。理由はHVも燃料がガソリンだからだ。

資源エネルギー庁によれば2020年3月末のガソリン給油所数は全国で前年比433軒減の2万9637軒と、ついに3万軒の大台を割り込んだ。ピークだった1994年3月末の6万0421件に比べると、26年間で半分以下になっている。

すでに過疎地ではガソリンスタンドが存在しない自治体も現実のものとなり、公共交通機関が未整備で自動車しか移動手段のない地域で「給油難民」が出始めている。

同庁によると、2020年3月末時点でガソリンスタンドが1軒もない地方自治体は青森県西目屋村や群馬県明和町など全国で10町村ある。皮肉なことに日本で初めて石油コンビナートが完成し、現在も稼働中の山口県和木町からもガソリンスタンドが姿を消した。

その他にも1軒のみが82町村、2軒が107市町村、3軒が133市町村と、ガソリンスタンドが3軒以下の「給油所過疎地」に該当する自治体は全国で332市町村にまで拡大している。全国1718市町村の実に2割近い。

自治体を挙げての「EVシフト」も

こうした状況を受けて、自治体から住民に「EVシフト」を促す動きが出てきた。ガソリンスタンドが1軒しかない岡山県西粟倉村では農業用水で発電する出力5キロワットの小規模小水力発電所のほか、村役場や高齢者生活福祉センター前、道の駅などにEV用の急速充電器を設置した。

「給油所過疎地」の西粟倉村では自治体主導でEVシフトが進む(同村ホームページより)

トヨタのお膝元である愛知県豊田市では「給油所過疎地」ではないにもかかわらず、ガソリンスタンドから遠い中山間地の旭地区にある小水力発電所の電力を利用したEV用の急速充電器も整備している。すでに最寄りにガソリンスタンドがない地域では、EVしか選択肢がなくなりつつあるのだ。

確かに急速充電器の数が増えたというものの、まだまだ少ないのは事実。ただ、EVは電気さえ通っていればどこでも充電できる。時間はかかるが、家庭でも100ボルト電源で充電できる。一方、ガソリンを燃料とするHVは、ガソリンスタンドが近くになければ完全に「お手上げ」だ。

政府がガソリン車の販売廃止を打ち出すことで、今後ガソリンスタンドの閉鎖は急速に進むだろう。そうなれば都市部以外ではガソリン給油に困るケースが増え、HVを利用するのは難しくなる。都市部のHVユーザーにしても日常使いではよいが、旅行やビジネスで地方に出かけると給油で苦労することになり、EVへの切り替えが進む可能性が高い。

こうしてEVの販売台数が増えれば車両価格は下がる一方、そのあおりを受けて生産台数が減少するガソリン車やHVの車両価格は逆に上昇するだろう。そうなればEVシフトは一気に進み、HVはガソリン車と運命を共にして市場から消えることになる。

HV依存度が高い日本車メーカーはEV開発の国際競争で後れを取りつつあり、巻き返しが急務だ。もし、国産車メーカーが政府による「ガソリン車販売廃止」をHVで乗り切れると考えているとしたら、国内自動車市場すら失うことになりかねない。

文:M&A Online編集部