信用力の劣る通貨は利上げをしても通貨高には振れず、かえって金利上昇による資金調達コストの高騰や借入金の返済負担増で景気が後退してさらなる通貨安を招くという「負のスパイラル」に陥る可能性が高くなる。通貨の信用不安は、何らかの「具体的なイベント」が引き金となって顕在化する。
アジア通貨危機ではヘッジファンドによるアジア通貨の大量の空売りが、昨年の英ポンド暴落では当時のトラス政権による財源の裏打ちのない大型減税政策を打ち出したことが引き金となった。日本の場合、このところ減税をアピールしている岸田政権が具体的な減税政策を打ち出せば、円安が進行する「具体的なイベント」となるリスクがあるだろう。
仮にそうした「具体的なイベント」がなかったとしても、日銀の利上げにもかかわらず中・長期的な円高に転じなければ、円の信用力低下を印象づけることになりかねない。そうなれば円安に拍車がかかることは避けられない。日銀のマイナス金利の終了とイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の撤廃が、試金石となるだろう。
当然、その直後は一時的に円高に振れるはずだが、巨額の民間資金が動かなければ効果は限定的となる。民間資金を動かすのが「円の信用度」であり、それを知るには利上げなどの為替介入を「やってみないと分からない」のが実情だ。ただ、かつての「強い円」時代のように「金利差さえ縮小すれば、円高局面に入るはずだ」という楽観的な観測は禁物だろう。
文:M&A Online
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2022年に、円安で倒産した企業数は23件で、前年(6件)の3.8倍に達し、2017年(23件)以来、5年ぶりに20件台となった。