M&Aにおける優先交渉権と独占交渉権

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近年、事業承継の手段、企業戦略による多角化の手段として、M&Aを使用する企業が増えています。これには、中小企業・小規模事業者経営者の高齢化に伴う後継者不足、国内市場の競争激化による生き残りといった背景があります。

M&Aの進め方は、最初に売り手企業と買い手企業は仲介会社等に相談し、マッチングします。次に両者の企業調査を行い、買収金額、交渉権、秘密保持等の条件を交渉します。その条件に合意したら、M&Aを進める意向表明を行い、M&Aの中間地点として、基本合意書を交わします。その後、資産価値の適正評価としてデューデリジェンスを実施し、M&Aの詳細条件を交渉します。最終合意したら、最終譲渡契約書を交わしてクロージングとなります。

会社や事業の売却・買収を検討している場合、売り手企業と買い手企業は2つの交渉権について知っておく必要があります。ここでは優先交渉権独占交渉権について説明します。

優先交渉権とは

優先交渉権とは、売り手企業が数社の買い手候補企業の条件を検討して優先度を設定することで、一定期間、1社または少数社の買い手候補企業が他の企業よりも優先してM&A交渉ができる権利です。

M&Aでは、売りたい企業1社に対して買いたい企業が複数社いる場合があります。また、M&Aでは、企業同士のマッチングや買収条件の交渉が難航すると契約締結までに何年もかかるリスクがあります。

売り手企業が複数社の買い手候補企業の条件を比較検討しながらM&Aを進めたい場合、基本合意書に入れる交渉権として、優先交渉権を選択します。

独占交渉権とは

独占交渉権とは、売り手企業が他の買い手候補企業を排除し、一定期間、1社の買い手候補企業を独占してM&A交渉ができる権利です。これを裏返せば、この期間、売り手企業は他の企業とのM&A交渉が一切できないことになります。

売り手企業が買い手候補企業を1社に絞ってM&Aを進めたい場合、基本合意書に入れる交渉権として、独占交渉権を選択します。

優先交渉権独占交渉権、どちらを選択すればよいのか

では、M&Aの中間時点で基本契約書を締結する際、優先交渉権独占交渉権、どちらを選択すればよいのでしょうか。ここで、2つの交渉権のメリットとデメリットをあげてみます。

優先交渉権
メリットとして、売り手企業は買い手候補企業を1社に絞らずに、複数社同時に買収の詳細条件や企業価値について比較検討できます。そして、優先度に合わせて複数社の買い手企業と話し合いをすることができます。複数社の買い手候補企業の詳細条件や企業価値を比較検討しながらM&Aを進めることができるので、売り手企業はより条件に合った買い手企業と契約することができます。

デメリットとして、交渉権はあくまでも優先的であり独占的ではないため、買い手候補企業がより条件に合った売り手企業を見つけた場合、離れてしまう可能性があります。

独占交渉権
メリットとして、買い手候補企業は売り手企業からM&Aの中間地点で独占の意思を受けることができます。他の買い手候補企業に売り手企業を取られる不安がないため、安心してM&A交渉を進めることができます。

デメリットとして、売り手企業は、買い手候補企業を複数社から選択できなくなります。よって、1社に絞るためには時間をかけて慎重に調査する必要があります。

以上、優先交渉権独占交渉権について説明しました。
M&Aの交渉を進める際は、売り手企業、買い手企業ともに優先交渉権独占交渉権のメリットとデメリットを確認しておきましょう。売り手企業は、M&Aの中間時点で自社に有利な交渉権を選択して基本合意書に記載するとよいでしょう。

文:中小企業診断士 和田 純子/編集:M&A Online編集部