東芝、「物言う株主」対策で自社株買いと特別配当に走るも不発か

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東芝<6502>が自社株買いと増配に乗り出した。2021年6月7日、同社は発行済み株式総数の約6%に当たる2700万株を上限に自己株を取得すると発表。併せて2021年3月期に年間1株当たり80円だった配当に110円の特別配当を追加して、2022年3月期の配当総額は190円と2倍以上に引き上げる。その「真の狙い」は何か?

株主との対話か?それともTOBへの牽制か?

東芝は自己株取得に最大で1000億円、特別配当に500億円を費やす。綱川智社長兼最高経営責任者(CEO)は今年4月の就任当初から、「物言う株主」といわれるアクティビストら「株主との対話」を重視。5月には2022年3月期中に1500億円の株主還元を実施する方針を明らかにしていた。今回の発表は、その「具体策」といえる。

東芝の株主還元強化には「株主との対話」以外に、TOB株式公開買い付け)を牽制する狙いがあるのかもしれない。4月に英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズがTOBを提案して以来、東芝は買収に神経質になっているからだ。

事実、特別配当は「クラウンジュエル」と呼ばれる買収防衛策で、最も一般的な手段だ。クラウンジュエルで旧村上ファンド系投資会社のシティインデックスイレブンス(東京都渋谷区)の敵対的TOBを撤回に追い込んだ日本アジアグループ<3751>の特別配当は、純資産の52%を占めた。特別配当が実施されてしまえば、シティにとっては「割高なTOB」となってしまうのだ。

ただ、東芝の特別配当は500億円。同社の純資産約1兆7000億円の3%にも満たない。つまり敵対的TOBを阻止する「決定打」にはなり得ないのだ。そのため、当面は特別配当と自社株買いで株価を引き上げ、株主総会に向けて投資家を味方につける方針とみられる。同時に株価が上がればTOB価格も高騰するため、抑止力にもなる。

株価が低迷ならアクティビストとの対立激化も

自社株買いと特別配当を発表した7日に、東芝株は一時前営業日比3.0%高の4785円と4月16日以来の高値に。しかし、その後は前営業日と同じ4645円で引けた。1500億円もの大盤振る舞いにもかかわらず、株価は東芝の思惑通りに運ばなかったといえそうだ。

そうなると心配なのが、株主総会でのアクティビストの行動だ。自社株買いと特別配当の根拠となったのは、同社の2021年3月期決算での当期純利益が1139億円と、前期の1146億円の赤字から2年ぶりに黒字転換したこと。

もっとも、この黒字転換は前期に米液化天然ガス(LNG)事業売却で巨額の損失を計上した反動と、物流子会社の東芝ロジスティクス(川崎市)を199億8000万円で売却した営業外収益による。本業の儲けを示す営業利益は、前期比20.0%減の1044億円に留まった。

自社株買いと特別配当にもかかわらず株価が伸び悩めば、アクティビストは経営陣に対する批判や要求を強めることになるだろう。綱川社長は10月に3カ年の新中期経営計画を公表する方針で、「非上場化を含めて企業価値を上げるための提案を受けたり、検討したりするのもやぶさかではない」と明言している。

非上場化は究極の買収対策であり、同時にアクティビストに「退場宣告」する強い警告とも受け取れる。ただ、前任の車谷暢昭前社長がアクティビスト対策としてTOB提案を受け入れる姿勢を見せたために、「東証1部復帰を悲願としてきた東芝の経営方針と合致しない」と辞任に追い込まれている。

その「急先鋒」が綱川社長だっただけに、買収阻止やアクティビスト対策とはいえ上場廃止を持ち出すことで経営方針の整合性を問われたり、社内の反発を招いたりする可能性もある。当面は東芝の株価の行方に注目だ。

文:M&A Online編集部