なぜ東芝は「切り売り」されるのか、そして未来はどうなる?

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ついに下った東芝の「最終処分」は3社分割だった(Photo By Reuters)

ついに東芝<6502>が「解体」されることになった。11月12日に同社が公表する中期経営計画に盛り込まれる。発電や交通システムなどのインフラ会社、ハードディスクドライブ(HDD)などのデバイス会社、半導体会社の3社に分割するという。現在の東芝は上場廃止となる可能性が高い。

分割する理由は「高く売れる」から

東芝「解体」の理由は明白だ。1社単独で売るよりも、3社に分けて売る方が「高く売れる」からである。その根拠は、東芝のように多数の事業を抱えている複合企業(コングロマリット)の企業価値が、各事業の合計よりも小さくなる「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれる現象だ。

高収益事業の利益が低収益事業の底上げに使われるといった経営効率の低下や、投資家にとって複合企業の価値評価が難しいなどの問題から、複合企業は専業企業よりも6~7%ほど低い企業価値がつくとも言われている。東芝側も3社分割の狙いを「企業価値の向上」としている。

だが、それは東芝にとってのではなく、「物言う株主」と呼ばれるアクティビストファンドにとっての「企業価値」だ。東芝の本意ではあるまい。なぜなら東芝は総合電機メーカーとしての上場にこだわり、2017年に上場廃止を回避するための6000億円増資でアクティビストファンドを招き入れた。

2021年4月には英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズによるTOB(株式公開買い付け)による非上場化を事実上拒否している。ここに来て3社分割案が飛び出したのは、アクティビストファンドとの交渉がもつれにもつれ、最も有利な価格で「たたき売り」する3社分割しか道がなくなったと考えるのが自然だろう。

3社とも分割後の未来は不透明

アクティビストファンドにしても、ポストコロナや中国の不動産バブル崩壊など世界経済の不透明な要素で市場が撹乱(かくらん)される前に、東芝投資の利益を確定したいはずだ。気の早いファンドであれば、今回の報道で値上がりした東芝株を分社化前に売り抜けるかもしれない。

では、3社分割後の東芝はどうなるのか?インフラ会社は原子力や火力といった「レガシー(遺産)」ビジネスを抱えており、公共インフラも国や自治体の財政悪化で利益は出そうにない。HDDなどのデバイス会社も、とうにピークを過ぎている。半導体はキオクシアホールディングスの株式保有会社となるが、不安定な半導体市況次第ではキオクシアが「金のなる木」でなくなるかもしれない。

コングロマリットには、ある事業が赤字でも別の事業の黒字で補填(ほてん)するという「支え合い」の機能もある。分社化されれば、それぞれの事業が行き詰まればそれで終わりだ。事業継続の望みはM&Aだけとなる。東芝の3社分割でグループを統括する持株会社を置かないとなると、アクティビストファンドは分割上場した3社の長期的な成長には期待していないとみるべきだろう。

アクティビストファンドが納得する価格で分割した3社が上場すれば、短期間のうちに売り抜ける可能性が高い。分社化による一時的な「企業価値上昇」メリットは享受するが、その後の分社化に伴うリスクは回避するという選択だ。

3社分割で東芝本体は消滅することに(同社ホームページより)

経営陣の内紛が「東芝分割」を招いた

2021年4月にCVCキャピタルの買収提案で引き起こされた東芝内部の権力闘争で、ファンドの手の内を知る車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)が事実上解任。これで東芝の「外堀」を埋めたアクティビストファンドは、2021年6月の株主総会直前に前年の総会が「経済産業省と示し合わせた上で、東芝に有利な方向で株主対応に当たった」とする報告書を公表する。

これで経産省は介入しにくくなり、東芝は「援軍」を絶たれてしまう。さらには株主の猛反発を受けて、取締役会議長だった永山治中外製薬名誉会長ら2人の取締役再任案が否決。総会後には取締役の人数が当初案の13人よりも5人少ない8人となった。その結果、社外取締役6人のうち過半数の4人がアクティビストファンドに近い人材となり、「内堀」も埋められてしまった格好だ。

独立して東芝の企業戦略を練る戦略委員会のメンバー5人中、委員長のポール・ブロフ社外取締役を含めた4人がアクティビストファンドの影響を強く受けている。戦略委員会の提案はアクティビストファンドの意向そのものと言っていいだろう。

10月に発表予定だった中期経営計画がずれ込んだのも、戦略委員会の東芝3分割案に東芝プロパーとそれに近い社外取締役が抵抗したためと考えられる。だがアクティビストファンドに「外堀」と「内堀」を埋められ、国という「援軍」を絶たれた東芝に、会社分割を拒否する力は残されていなかっただろう。

東芝は「上場会社としてのメリットを生かすことが、企業価値の向上につながる」(東芝コメント)とCVCキャピタルのTOBによる上場廃止提案をはねつけた翌月に、「非上場化を含め様々な企業価値を上げるための提案を受けること、それを検討することはやぶさかではない」(綱川智東芝社長兼CEO)と方向転換している。こうした事実からも、アクティビストファンド主導で中期経営計画が策定されたことは間違いないだろう。

3社分割案が綱川社長はじめ東芝プロパーの「本意」ではないとすれば、2015年の不正会計に始まり2017年の米原子力子会社ウェスティングハウス破綻がダメ押しとなった経営危機で、優良事業を次々に売却してなんとかしのいできた経営再建は「不幸な結末」を迎えることになる。

その都度、状況を悪化させたのは東芝経営陣の「内紛」だった。最後の「選択肢」だったCVCキャピタルによるTOBが成立すれば、持株会社なき3社分割という「切り売り」は避けれれたかもしれない。経営陣がまとまらなければ、東芝のような大手企業ですらアクティビストファンドにまんまと経営を支配され、会社の成長や将来に関係なく彼らの利益が最大限になる形で「処分」されることが明らかになったと言えそうだ。

文:M&A Online編集部

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