旧村上ファンド系投資会社を撃退した買収防衛策「クラウンジュエル」とは

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旧村上ファンド系投資会社のシティインデックスイレブンス(東京都渋谷区)が日本アジアグループ<3751>に対して実施していたTOB株式公開買い付け)を撤回した。理由は日本アジアが発表した特別配当の実施。「クラウンジュエル」と呼ばれる買収防衛策だ。

自社の魅力を下げることで買収を阻止

クラウンジュエルは、英語では「Crown Jewel Defense」と呼ばれる。要は「王冠を盗まれないために埋め込まれている宝石を取り外す」という意味だ。具体的な手法としては、自社が保有する価値のある事業や財産を第三者に譲渡したり分社化することで自社の価値をあえて引き下げ、買収意欲を削ぐのが一般的だ。そのため「焦土作戦」の異名がある。もちろん「焦土」になるのは敵対的買収者ではなく、自社だ。

日本アジアの場合は事業の売却ではなく、特別配当という手段を使った。なぜ特別配当が防衛策になるのか。重要なのは、その金額である。同社の実施する特別配当は1株当たり300円で、配当総額は約82億円。同社純資産の帳簿価額の52%に相当する。

これではシティインデックスが募集していた1株当たり1210円のTOBを実施した場合、純資産が半分以下になるため割に合わない(経済合理性がない)。やむなくTOBを断念することになった。とはいえ、シティインデックスもこの騒動で利益を上げるはずだ。

日本アジアの株価は3月5日の終値が1075円。シティインデックスは1月18日までに20.24%(約562万株)の日本アジア株を取得している。同日の終値は885円なので、3月5日に全株を放出したら10億円以上の売却益を得られたことになる。実際には株価が安い時期に購入した株が多く、売却益はもっと大きいだろう。

クラウンジュエルは「身内の争い」と話題になった前田建設工業による前田道路に対する敵対的TOBでも買収防衛策として持ち出されたことがある。前田道路は手元資金の約6割に当たる535億円の特別配当を実施する方針を明らかにして前田建設工業を牽制したが、2020年3月13日にTOBは成立した。クラウンジュエルも「万能薬」ではない。

買収防衛策のためとはいえ、クラウンジュエルで企業の重要事業を譲渡する場合には株主総会特別決議が必要だ。さらに、保有財産を安価で売却して会社に損害を与えた場合は、善管注意義務・忠実義務がある取締役には特別背任罪が適用される可能性がある。そう簡単に抜ける「伝家の宝刀」ではないのだ。

文:M&A Online編集部