大幸薬品、クレべリンで「徹底抗戦」から一転「白旗」掲げた理由

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ついに「万策尽きた」か。大幸薬品<4574>が5月3日、「空間除菌」をうたい新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行初期に飛ぶように売れた「クレベリン」の効能が景品表示法に違反するものと初めて認め、謝罪した。消費者庁の措置命令に対する差し止め申し立てなどの法廷闘争は、同社の「敗北」で終結を迎える。

「優良誤認」を認める

同社によると2018年9月13日以降、クレベリンの商品パッケージで「空間に浮遊するウイルス・菌・ニオイを除去」、「空間のウイルス除去・除菌・消臭にご使用いただけます」などと表示することにより、あたかも商品を使用すれば二酸化塩素の作用により、室内空間に浮遊するウイルスまたは菌が除去・除菌される効果が得られるかのような表示をしていた。

同社は消費者庁に関連資料を提出して表示の正当性を主張したが、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められなかった。同社はこうした表示が一般消費者に対し実際よりも著しく優良であると示す「優良誤認」表示であり、景品表示法に違反するものだった認めている。

同社は2022年1月20日に「『クレベリン置き型』に関する仮の差止めの申立てにおける勝訴と本日の措置命令について」と題したコメントを発表。同12日に「クレベリン置き型」の空間除菌効果の表示について東京地裁で勝訴しているとした上で、景品表示法に基づく措置命令を「誠に遺憾と受け止めており、速やかに必要な法的措置を講じてまいります」と「徹底抗戦」の構えをみせていた。

販売低迷で「法廷闘争」の意味がなくなった

今回、大幸薬品が消費者庁の措置命令に全面的に従う「白旗」を掲げた背景には、4月12日に東京高裁が東京地裁の決定を覆し、同社の仮の差止めの申し立て認めない決定をしたことに加え、ビジネス戦略上の理由もありそうだ。

同社が2月18日に発表した2021年12月期決算によると、クレベリンの販売不振で当期純損益が前期の31億円の黒字から95億円の赤字に転落。在庫増加に伴う棚卸資産評価損は37億円に達した。同期の売上高は112億円、営業損益は49億円だったので、当期赤字は売上高に迫るレベルだ。

同社は2020年初めからの品薄に対応するため、同11月に約23億円をかけて茨木工場(大阪府茨木市)を建設。クレベリン置き型の生産能力を約10倍に引き上げた。ところが、クレベリンの販売に急ブレーキがかかる。コロナ禍の長期化に伴う消費者の「コロナ慣れ」や、厚生労働省や世界保健機関(WHO)が消毒剤の噴霧などの「空間除菌」に否定的な見解を示し、マスメディアで大きく伝えられたことが響いた。

クレベリンの商品在庫が積み上がり、新工場稼働から5カ月後の2021年4月に生産をストップした。もはや、同社にとってクレベリンは「稼ぎ頭」から「お荷物」になっており、これ以上の法廷闘争に意味がないと判断した可能性が高い。株式市場の受け止めも冷静だ。同社が景品表示法違反を認めた翌営業日に当たる5月6日の株価は、前営業日より1円だけ安い594円で引けている。

文:M&A Online編集部

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