【4月M&Aサマリー】13件減の70件、3カ月連続で前年を下回る|米KKRが日立物流にTOB

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日立物流の事業所(埼玉県内で)

2022年4月のM&A(適時開示ベース)件数は前年同月比13件減の70件で、3カ月連続で前年同月比マイナスとなった。1~4月累計は307件と前年同期を21件下回る。ロシアのウクライナ侵攻や急激な円安で経済環境が大きく変化する中、ここへきてペースダウンが否めない。

4月の取引金額は6055億円(公表分を集計)。全体の7割以上を占めたのは米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)による日立物流の買収案件で、TOB(株式公開買い付け)に最大4492億円を投じる。

日立物流売却、日立の上場子会社再編が一段落

上場企業の適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

4月のM&A総件数70件の内訳は買収53件、売却17件(買収側、売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち国境をまたぐ海外案件は14件(買収5件、売却9件)だった。

米KKRは4月28日、日立物流にTOBを行い、非公開化すると発表した。約61%の株式を最大4492億円で取得する内容で、9月下旬のTOB開始を目指している。日立物流は元々日立製作所の子会社。2016年以降は持ち分法適用関連会社となり、日立の保有割合は現在約39%。

日立はTOBには応募せず、TOB成立後に日立物流が自己株式取得を実施し、日立から全株式を買い取る。これにより、日立は約2200億円を手にする。

さらに日立は、日立物流を子会社化したKKR傘下の企業に10%(100億円相当)を再出資し、経営に一定に関与することにしている。

日立は今年1月に、日立建機の保有株式の半分の約26%を伊藤忠商事などに1820億円で売却すると発表した。これに続く今回の日立物流株の売却で10数年がかりで進めてきた上場子会社の再編が一段落。最盛期20社を超えた上場子会社はゼロとなる運びだ。

金額2位はリコーが富士通傘下のスキャナー大手、PFU(石川県かほく市)を842億円で買収する案件。OA機器メーカーからデジタルサービス会社への転換に向けた成長投資の一環と位置付けている。リコーにとっては2008年に米事務機器販売会社のアイコンを約1600億円で買収して以来の大型M&Aとなる。

ティラド、熱交換器のロシア合弁子会社を譲渡

海外案件ではロシア関連で動きが表面化した。ティラド(旧東洋ラジエーター)が自動車・建機用などの熱交換器を製造するロシア子会社TRM(ニジニノヴゴロド市)を傘下に置くオランダ持ち株会社を、ロシアの合弁相手に譲渡することを決定。2009年以来のロシア事業から撤退することになった。

3月にゼロだった日本企業による米国企業の買収は2件あった。日本管財がホノルルでオフィスビルなどの資産管理業務を手がける米パシフィック・プロパティー・グループ(ハワイ州)を、ティーガイアがWi-Fi関連サービスの米Relay2(カリフォルニア州)の子会社化を発表した。

アフリカでの案件もあった。サントリー食品インターナショナルは、ナイジェリアの清涼飲料水子会社をモーリシャス企業に売却する。サントリー食品は2016年に英国製薬大手グラクソ・スミスクラインからナイジェリアでの飲料事業を取得していた。

TOB中の東洋建設、買収合戦の様相も

海洋土木大手の東洋建設をめぐるTOBは行方が混とんとしてきた。東洋建設の子会社化を目的に、前田建設工業を中核とするインフロニア・ホールディングスが3月末からTOBを実施しているが、任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス」(YFO、東京都港区)が待ったをかけたのだ。

YFOは現在、東洋建設に対して買収提案を打診中。この中で、インフロニアの770円を230円上回る1株1000円の買付価格を提示している。YFOは傘下の投資会社3社を通じて東洋建設株を買い進め、保有比率は26%余りに達し、インフロニアに代わって筆頭株主に躍り出ており、買収合戦に発展しかねい情勢だ。

インフロニアは5月9日までとしていた買付期間を5月19日まで延長することを決めたが、買付価格は変更していない。ただ、東洋建設の株価はインフロニアの買付価格を上回る900円台の高値圏で推移し、TOB成立が絶望的。買付価格引き上げに動くのか、インフロニアの出方が注目される。

◎4月M&A:金額上位案件(10億円以上)

1 日立物流 米KKRが日立物流をTOBで非公開化。日立製作所は10%を再出資 4492億円
2 リコー 富士通傘下でスキャナー大手のPFU(石川県かほく市)を子会社化 842億円
3 住友倉庫 米国海運子会社のウエストウッドをシンガポール海運大手スワイヤーに譲渡 約185億円
4 トライステージ MBOで株式を非公開化 109億円
5 シップヘルスケアホールディングス 医療・介護施設向けカーテンリース・販売のキングラン(東京都千代田区)を子会社化 90.3億円
6 アルコニックス リチウムイオン電池向け機構部品製造のソーデナガノ(長野県岡谷市)を子会社化 88.3億円
7 チヨダウーテ ドイツ建材大手のクナウフ・グループがチヨダウーテをTOBで子会社化 77億円
8 アウトソーシング 倉庫内作業向け人材派遣・業務請負のサンキョウ・ロジ・アソシエート(東京都渋谷区)を子会社化 62.3億円
9 アマナ ストックコンテンツ企画・販売子会社のアマナイメージズ(東京都品川区)を投資会社に譲渡 20.1億円
10 三井松島ホールディングス 送電線用架線金物製造の日本カタンホールディングス(大阪府枚方市)を子会社化 19.2億円
11 サントリー食品インターナショナル ナイジェリアの清涼飲料水子会社をモーリシャス企業に譲渡 15億円
12 日本情報クリエイト 不動産業界向け情報サービス支援のリアルネットプロ(東京都港区)を子会社化 14.3億円
13 ティーガイア Wi-Fi関連サービスの米Relay2(カリフォルニア州)に追加出資し、子会社化 10.9億円

文:M&A Online編集部

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