ハイブリッドで成長し、電気自動車で取り残される「日の丸電池」

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本格的な電気自動車(EV)時代を迎え、日本経済にとって新たな「懸念材料」が浮上してきた。EVの基幹部品となるリチウムイオン電池の動向だ。かつては世界の車載電池市場を席巻した日本勢に急ブレーキがかかり、中国・韓国勢に追い越されている。なぜ、こんなことになってしまったのか。

世界市場で存在感が低下するパナソニック

韓国調査会社のSNEリサーチによると、2020年の同市場トップは中国CATL(寧徳時代新能源科技)。シェアは対前年比2ポイント減の26%ながら、トップを守った。2021年には再びシェアを伸ばし、30%に達すると予測されている。

2位は韓国のLGエナジーソリューションで、同12ポイント増の25%と大幅にシェアを伸ばし、CATLに1ポイント差まで詰め寄った。2021年も28%にシェアを伸ばすと予想され、トップをうかがう。

3位はパナソニック<6752>で、同5ポイント減の17%に伸び悩んだ。主要顧客である米テスラからの受注を、CATLやLGに奪われたのが響いた。上位2社に比べて増産計画が立ち遅れているのもネックで、2021年には13%にシェアを落とすと予想されている。

2019・2020年の自動車用リチウムイオン電池世界シェア(単位:%)

順位 メーカー名 国籍 2019年 2020年 2021年
(予測)
CATL 中国 28 26 30
LGエナジーソリューション 韓国 13 25 28
パナソニック 日本 22 17 13
BYD 中国 8 6 5
サムスン 韓国 6 7 7

世界シェアの3分の2を占めていた「日の丸車載電池」

テクノ・システム・リサーチ(東京都千代田区)によると、2013年にはパナソニックの世界シェアは38%と圧倒的に強かった。同社だけではない。日産自動車<7201>とNEC<6701>が設立したオートモーティブエナジーサプライ(AESC)が20%、GSユアサ・三菱商事<8058>・三菱自動車<7211>が出資したリチウムエナジージャパン(滋賀県栗東市)が8%と、この3社で世界シェアの3分の2を占めていた。

2013年の自動車用リチウムイオン電池世界シェア(単位:%)

順位 企業名 国籍 2013年
パナソニック 日本 38
AESC 日本 20
LG化学 韓国 19
リチウムエナジージャパン 日本 8
サムスン 韓国 4

上位5位から脱落したAESCは日産「リーフ」、リチウムエナジージャパンは三菱自の「i-MiEV」と、量産第1世代のEV向けの電池を生産していた。ところがEVの販売が予想通りには伸びず、電池需要は低迷する。日産が2019年3月にAESCを中国の再生可能エネルギー関連企業のエンビジョングループへ売却し、エンビジョンAESCグループ(神奈川県座間市)となった。

一方、パナソニックはトヨタとの合弁企業であるプライムアースEVエナジー(静岡県湖西市)がハイブリッド車(HV)用電池の生産で業績を伸ばした。日本の車載電池メーカーは、EV向けの2社が早い段階で上位グループから脱落し、HV向けの1社が踏みとどまったのだ。

そこに世界的なEVブームが到来する。皮肉なことにEV向け電池を生産していた2社は、すでに急増するEV需要に対応できるだけの生産能力を失っていた。一方、パナソニックはHV向け電池でシェアを伸ばしただけに、より大容量なEV向け電池の生産拡大と低価格競争で乗り遅れつつある。

パナソニックはトヨタとの合弁でプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(東京都中央区)を立ち上げた。日本と中国両国で車載電池の増産に乗り出し、巻き返しを図る。子会社の大連プライムプラネットエナジー(中国・大連市)でラインを新設し、年内にHV用角形リチウムイオン電池の生産を始めると発表した。

同じ車載電池でもHVとEVでは、容量やコストなど求められるものは全く違う。テスラからのEV向け電池の受注が細り、HV向けの電池受注が増えれば、電池の脱HV化は先送りになりそうだ。EVシフトが進む中で、パナソニックの首位奪還はますます遠のくだろう。

文:M&A Online編集部