「電力不足だからこそ、電気自動車を普及させるべき」理由とは

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(写真はイメージ)

ロシアによるウクライナ侵攻や急激な円安の進行で電力料金が高騰、さらに燃料不足による夏の電力危機が懸念されている。政府も7年ぶりに節電要請を実施するなど、対策に追われている。そうした状況を受けて「節電要請をしている政府が電気を食う電気自動車(EV)普及の旗を振るのはダブルスタンダードだ!」との批判が出ている。

電力はガソリンと根本的に違う

確かに電力不足の真っ最中にEVが充電すれば、ますます電力が足りなくなるのは当然だ。いかにも「正論」に聞こえるが、重要な「事実」を見落としている。電力とガソリンとの違いだ。ガソリンや天然ガス、石炭などの化石燃料は簡単に備蓄できる。一方で電力は備蓄が難しい。実はこれが根本的な問題なのだ。

電力の送電網(グリッド)は需要と供給を、常に同じに保たなくてはいけない。需要が増えれば供給を増やさなくてはいけないのは当然だが、反対に需要が減れば供給も減らす必要がある。多すぎても少なすぎてもいけない。

もし、そのバランスが崩れると過負荷や過電流を起こし、グリッドやユーザーの電気設備・機器などに深刻なダメージを与える。だから電力会社はピークに合わせた発電能力を持つ必要があるのだ。しかし、24時間にわたってピーク時の電力量が必要なわけではない。つまり、ピーク時以外は余剰発電能力を抱えることになる。

例えば深夜の時間帯などは、電力の消費が極端に落ちる。電力会社が「最もコストが低い」とする原子力発電所の発電比率を大幅に引き上げられないのは、反対運動のためではない。原発は、こうした需要が低い時間帯に発電量を減らすのが難しいからだ。

EVが普及すれば電力不足は、むしろ回避できる

もし電力が備蓄できれば、どうだろう?発電量を一定に保って余剰電力を保存しておき、需要のピーク時に電力を放出すれば「電力不足」は起こらない。現実に深夜の電力を利用して貯水池の水をポンプでダムに汲み上げ、需要のピーク時に水力発電で電力を供給する揚水発電所が存在する。

電力を溜めるもう一つの方法は蓄電池だ。しかし、まだコストが高い。家庭でピーク時の節電要請への対応のためだけに家庭用蓄電池を購入する人はいないだろう。では、それ以外の用途で使うのならどうか?その有力候補がEVなのだ。コンセントを備えて停電時に電気製品が利用できるEVも多い。

家庭の配電設備に接続し、停電時に家屋に電力を供給する「Vehicle to Home(V2H)」システムもある。日産自動車<7201>によると「リーフe+」に搭載している容量62kWhのバッテリーは、2人暮らしの一般家庭で4日分の電力を蓄電できるという。

デンソーのV2Hシステム概念図(同社ホームページより)

つまり家庭にEVが普及すれば、深夜に充電しておいて電力不足の時間帯に利用することが可能で、ピーク時のグリッド負荷を抑える「節電効果」が期待できる。「電力不足だからこそ、EVを普及させるべき」が正しい認識と言えるだろう。

文:M&A Online編集部

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