日産悲願の「ルノー支配」脱却を喜んでばかりもいられない理由

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日産がルノーとの「不平等提携」から解放される日が近づいている(Photo By Reuters)

ようやく「独立」の道筋が見えてきた。仏ルノーが日産自動車<7201>への出資比率を、現在の43%から15%に引き下げる交渉が進んでいることが分かったのだ。日産がルノーの電気自動車(EV)専業新会社に出資する見返りとして、自社株を買い戻す。日産の悲願だった「不平等アライアンス(提携)」が、ようやく解消される。だが、喜んでばかりもいられない。

日産を抱えるメリットは事業よりも連結利益だった

ルノーが1999年の出資以来、日産を支配し続けた「動機」は何か?提携によるメリットとして「部品の共同調達によるコスト削減」が強調されるが、素材や付加価値が高い電子部品を除いて、自動車部品の運搬コストに見合う距離は最大100km程度だ。日欧の部品メーカーで、両社の工場から100km以内に生産拠点を持つ部品メーカーは限られる。

つまりルノーにとって提携のメリットは、連結決算によって日産からもたらされる増益効果だった。その日産がカルロス・ゴーン前会長の解任以来、業績低迷に陥っている。2020年3月期、2021年3月期と2期連続で営業・当期利益ともに赤字に。2022年3月期は3年ぶりに黒字転換したものの、売上高営業利益率は2.9%と、トヨタ自動車の9.5%はもちろん、ホンダの6.0%、マツダやSUBARUの3.3%を下回る。

日産の利益推移
日産の利益推移(バフェット・コードより)

ルノーにとっては連結利益増のうまみがないどころか、2020年3月期や2021年3月期のような赤字決算になると、自社の連結利益を食いつぶすことになる。今後も日産の業績がV字回復する見通しは立たず、自社よりも規模が大きい「お荷物子会社」化していた。ルノーにとっては日産という「リスク」を切り離す、格好のチャンスなのだ。

ルノーにとってはメリットだらけの「日産ばなれ」

それというのも日産の財務状況はルノーが救済に入った1999年当時に比べれば危機的ではなく、手元資金も約1兆3000億円と自社株を買い戻せる体力は残っている。8000億円超とみられる日産株の売却収入は、EVシフトに向けて事業構造の転換を急ぐルノーにとって干天の慈雨だろう。

しかも、日産がEV新会社にも出資してくれるという「ご祝儀」つきだ。EV新会社が量産体制に入れば、出資する日産も「お得意先」になる。ルノーからみれば、極めて「おいしい話」なのだ。

一方、日産にとってはどうか?Win-Winの関係であればルノー同様、日産にとっても「おいしい話」のはずだが、おそらくそうはならないだろう。今回の「独立」が成功すれば、自社株の買い戻しとEV新会社への出資で貴重な手元資金が流出する。今後のEVシフトに向けて巨額の研究開発費や設備投資が必要となるが、そのための資金が枯渇することになる。

ルノーのEV新会社に依存すれば、またもルノーの意向で経営戦略が振り回される。そうならないためにはEV新会社に過半数の出資をして、日産の子会社化するしかない。当然ながら、ルノーがそれを許すはずもない。ルノーの言いなりになるのが嫌なら、自社単独でEV開発と量産にハンドルを切るしかないが、すでにEVで「負け組」になっている日産が生き残るのは厳しいだろう。

ルノー・日産の資本関係は遠からず完全解消へ

もっとも、ルノーのEV陣営に入ったとしても生き残りは難しいかもしれない。同社は2021年通年で13位だったEV(プラグインハイブリッド車を含む)世界販売累計で、2020年1〜8月にベスト20位から脱落。日産は昨年の段階でベスト20圏外だった。

ルノーも日産同様、EVで「負け組」になるつつある。ルノーと日産がEVでアライアンスを組んでも「弱者連合」で終わる可能性がある。

「リーフ」で先行し「サクラ=写真」がヒットした日産だが、EV世界販売ではベスト20にも入らない
「リーフ」で先行し「サクラ=写真」がヒットした日産だが、EV世界販売ではベスト20にも入らない(同社ホームページより)

15%のマイノリティー出資は、ルノーと日産の両社にとっては「後始末」に過ぎない。ルノーが日産株を手放すのは、日産を見限ったからであり、遠からず資本関係は解消されるだろう。2021年にルノーと日産が持ち合っていた独ダイムラーの株を全て売却したのと同じことが起こる。

今後の成長に不安が残る日産にとって「後ろ盾」がなくなることは、中・長期的なリスクを高めることになるだろう。とはいえ急速なEVシフトが進む自動車業界で、ガソリンエンジン車が主力の日産の「後ろ盾」になってくれる大手自動車メーカーが現れるとは考えにくい。

次に経営危機を迎えるようなことがあれば、それが「日産最期の日」になりかねないのだ。悲願だったルノーからの独立は、日産にとって「危険な綱渡り」の始まりになるのかもしれない。

文:M&A Online編集部

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