2016年4月1日、電力の小売が全面的に自由化された。異業種が続々と新規参入し、あの手この手の新サービスに消費者はまだ戸惑いを隠せない。電力自由化をきっかけにM&Aが進むのでは、と唱えるのはエネルギー産業分野の第一人者、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授・橘川武郎氏だ。インタビューを前に、まずはエネルギー業界の今を概観する。
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エネルギー業界は、いま激動の時期を迎えている。2016年4月1日、電力の小売が全面的に自由化された。翌17年4月には都市ガスの小売全面自由化も控えており、段階的な市場開放を経て2020年代には電力・ガスの供給体制が大きく変わる。
こうした自由化の動きや原発再稼動の問題、さらには政府が導入を促進する再生可能エネルギー分野なども材料となり、業界再編や提携が一段と活発になっている。
■図1 電力・ガス自由化の今後の流れ
2016年4月 | 低圧(一般家庭向け)の電力小売の自由化、熱供給事業の自由化 |
2017年4月 | 都市ガス小売の自由化 |
2020年4月 | 送配電部門の法的分離 |
2022年4月 | ガス導管部門の法的分離 |
まずは電力小売の自由化に伴うプレーヤーを整理したい。今回の電力小売自由化では、電力の一般家庭への小売が自由化される。一般家庭電力市場は約8兆円規模であり、これまでの大手電力会社(東京電力・関西電力など)が独占していた市場に、都市ガスや石油元売りのほか、商社・通信・流通などあらゆる異業種の企業が参入する。2、3年先には、競争激化の中で淘汰のM&Aも行われると予想される。
■図2 主な電力小売業者の分類
登録小売電気事業者 266社(2016年3月31日現在)
大手電力会社 | 東京電力、関西電力など |
ガス会社 | 東京ガス、大阪ガス、TOKAIグループなど |
石油元売会社 | JXエネルギー、東燃ゼネラル石油、昭和シェル石油 |
通信 | ソフトバンク、KDDI、JCOMなど |
流通その他 | MCリテールエナジー(ローソン、三菱商事)、HIS、東急パワーサプライなど |
エネルギー業界といっても、電力、ガス、石油、火力、再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・地熱・バイオマス)などさまざまだが、今回は電力、ガス、石油業界を中心にまとめてみたい。
■図3 電力業界の主なM&A
年月 | 種別 | 当事者 | 内容 |
---|---|---|---|
2013.8 | 電力 | 中部電力→ダイヤモンドパワー | 中部電力が三菱商事全額出資子会社で電力小売り事業者のダイヤモンドパワーを買収 |
2013.8 | 電力 | JCOM→IPPS | KDDIと住友商事の共同出資会社でCATV最大手のジュピターテレコム(JCOM)がアイピー・パワーシステムズ(IPPS)を買収。買収額は非公表 |
2014.1 |
電力 | 東芝→ニュージェネレーション社(英) | 東芝が英国原子力発電事業開発「ニュージェネレーション社」の株式を、スペイン電力会社イベルドローラ社および仏電力会社GDFスエズ社より取得(60%)。取得総額は約1億ポンド(約170億円)。 |
2014.4 | 電力 | エナリス→日本電力 | 電力一括受電事業で業界第4位の日本電力を買収。 |
2015.4 | 電力 | 東京電力・中部電力 | 燃料調達と火力発電事業の包括提携に伴う折半出資の合弁会社「JERA」を設立。 |
2015.5 | 電力 | 東京電力→K1 Energy(カタール) | カタールのガス火力発電・造水事業への出資比率を0.45%から10%に拡大 |
2015.10 | 電力 | 中部電力→チレボン・エナジー・プラサラナ社(インドネシア) | インドネシアの高効率石炭火力発電事業に10%出資 |
2016.1 | 電力 | シナネンホールディングス→日本ソーラー電力 | 太陽光発電事業を手がける第二電力より同社が保有する日本ソーラーの株式を取得。取得額は約5億9百万円。 |
■図4 ガス業界の主なM&A
年月 | 種別 | 当事者 | 内容 |
---|---|---|---|
2013.8 | ガス | 関東天然瓦斯開発、大多喜ガス | 関東天然瓦斯開発、大多喜ガスが共同持株会社「K&Oエナジーグループ」を設立(1:0.8) |
2013.10 | ガス | 大阪ガスケミカル→Jacobi CarbonsAB | 大阪ガスの100%子会社である大阪ガスケミカルが、活性炭事業大手のJacobi Carbons AB(スウェーデン)を、392百万米ドル(約383億円)で買収 |
2013.11 | ガス | エア・ウォーター→エレンバリー社(印) | 総合ガスのエア・ウォーターがインドの産業ガス「エレンバリー社」の株式51%を取得 |
2015.10 | ガス | 三井物産→ガスペトロ社(ブラジル) | ブラジル国営石油会社のペトロブラス社が100%保有するガスペトロ社株式の49%を取得。買収額は約670億円 |
2015.12 | ガス | リンナイ→ガスター | ガス機器製造会社ガスターの経営権を東京ガスから取得。出資比率を11.1%から90%に引き上げ、連結子会社化 |
2015.12 | ガス | 大阪ガス→Erogasmet(伊) | 大阪ガスが100%子会社のOsakaGasUKを通じて、イタリアの都市ガス配給会社Erogasmet S.p.A.に資本参加 |
2016.2 | ガス | 東京ガス→東京ガスリキッドホールディングス | リキッドガス事業を新設分割により設立する新会社東京ガスリキッドホールディングスへ承継 |
■図5 石油業界の業界再編
M&A Onlineでは、「激動のエネルギー業界のM&A」をテーマに、エネルギー産業分野の第一人者・橘川武郎教授(東京理科大学大学院 イノベーション研究科教授)に緊急インタビューを行った。M&Aでエネルギー業界は今後どうなっていくのか? (次回に続く)
まとめ:M&A Online編集部
【橘川武郎教授緊急インタビューを読む】
第1回 前編 石油業界の2つの統合は、「内向き型」と「外向き型」
第2回 後編 電力業界の業界再編が起きる可能性あり。「原発再稼動」が変数となる
第3回 前編 電力自由化のキーマンは意外にも「ガス業界」
第4回 後編 電力ガス自由化とエネルギー業界のこれから