数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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『ソフトバンクで占う2025年の世界』全世界に大再編を巻き起こす「孫正義の大戦略」
田中道昭 著 PHPビジネス新書
ビジョン・ファンド事業で巨額赤字を計上しながらも、「潮目が変わった」と豪語するソフトバンクグループ<9984>の孫正義社長。果して彼は天才経営者なのか、それとも大ぼら吹きなのか。世間の見方は真っ二つだが、そのソフトバンクグループの経営戦略を分析し、同社の将来シナリオを示す1冊だ。
ビジョン・ファンド最大の失敗となった米ウィーワーク問題についても最新事情を盛り込み、詳細に分析。過剰なリスクテーキングをしたことは批判する一方で、単なる「不動産の又貸し屋」ではなく「コミュニケーション形成の起点になっている」ことも指摘。全く的外れな投資ではなかったことを公平に評価している印象だ。
こうした問題の渦中にある企業について解説するビジネス本の多くは、決算数字の「見た目」だけで判断した「批判本」か「礼賛本」に分かれる。自動車業界でいえば赤字決算に転落した日産自動車<7201>については「批判本」が、巨額の黒字決算が続くトヨタ自動車<7203>については「礼賛本」があふれるという具合だ。
赤字決算に転落したソフトバンクグループについては、今後「批判本」が増えると思われるが、本書はそれとは一線を画す「分析本」である。その真骨頂が第4章の「最大の強み『金融財務戦略』を詳解する」だ。
財務といえば「批判本」は赤字だけをあげつらうが、本書では創業以来、巨額の新規投資や大型買収を次々と成功させてきたソフトバンクグループの金融財務戦略を最大の強みと評価する。
実はこの視点がなければ、ソフトバンクグループの動きを把握することはできない。多くのビジネス本や経済メディアが赤字だけを見て批判するのは、企業をメーカーの視点でしか分析できないことにある。確かにこれまでは日本経済で注目を集めてきたのはメーカーだ。
とはいえ、メーカーと同じ視点でソフトバンクグループを「切った」ところで真実は見えてこない。日本経済が「メーカー主導」から「ファンド主導」へ変化する可能性は高くないかもしれないが、「ファンド的な性格を持つ企業」でなければ世界では勝てない。
それは高成長を続ける米GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)が、各社の秀逸なビジネスモデルだけに依存しているのではなく、矢継ぎ早の投資やM&Aによって時代の変化をリードしていることからも明らかだ。筆者はタイトル通り「ソフトバンク」という企業を題材に、2025年の経済を語っているのである。(2019年12月発売)
文:M&A Online編集部