パン業界の再編が加速!外食企業がベーカリーショップに熱視線

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サンジェルマン都内店舗

居酒屋「磯丸水産」やしゃぶしゃぶレストラン「しゃぶ菜」を運営するクリエイト・レストランツ・ホールディングス<3387>が、日本たばこ産業<2914>からサンジェルマン(神奈川県横浜市)の全株を取得し、子会社化すると発表しました。株式の取得日は2022年12月1日。クリレスはサンジェルマンの子会社である北海道サンジェルマン(北海道札幌市)も傘下に収めます。

クリレスはM&Aを活用してフードコートレストラン、居酒屋、ゴルフ場レストランなど業態を広げてきた会社。今回の買収も、アフターコロナを見据えて展開する事業を強固なものにする狙いがあります。

新型コロナウイルス感染拡大以降、非中核事業であるパン・ベーカリー事業を売却。外食やパンの専門会社がその受け皿となるケースが目立つようになりました。パン業界は再編が加速する可能性があります。この記事では以下の情報が得られます。

・サンジェルマンの業績
・主なパン業界のM&A
・パンとベーカリーが注目される理由

サンジェルマンは赤字が続いて債務超過状態に

サンジェルマンは1934年10月に操業を開始した歴史ある会社。もともとは東横百貨店(現:東急百貨店)の製菓工場という位置づけでした。1948年9月に東横百貨店から東横食品工業として独立。1970年10月にサンジェルマン1号店を東京都渋谷区に出店しています。1979年8月に東横食品工業が東急<9005>のグループ傘下にあった食品メーカーと合併し、東急フーズとなります。1994年5月に分社化して株式会社サンジェルマンを設立しました。その年の9月に東急フーズのベーカリー事業をサンジェルマンが譲受します。

2002年5月にJTがサンジェルマンの全株を取得、ベーカリー業界に進出しました。JTは2008年4月に加ト吉(現:テーブルマークホールディングス 東京都中央区)を完全子会社化すると、食品事業を再編します。サンジェルマンのほか、ジェイティフーズ(東京都品川区)、日本食材加工(宮崎県宮崎市)など食品関連会社が加ト吉に移転しました。

JTは2019年1月に中間持株会社のテーブルマークホールディングスを解散し、孫会社のテーブルマーク、富士食品工業(神奈川県横浜市)とサンジェルマンの3社を直接子会社とする組織再編を実施。サンジェルマンは再びJTの子会社となりました。

そして2022年12月にクリレスがサンジェルマンの全株を取得する予定です。クリレスはこのM&Aに23億6,200万円(株式の取得に23億4,000万円、アドバイザリー費用に2,200万円)を投じています。

サンジェルマンは2021年12月期の売上高が前期比5.4%増の90億7,500万円となりましたが、5億8,200万円の営業損失(前年同期は12億5,400万円の営業損失)を出しています。3期連続で利益は出ておらず、2021年12月末の時点で39億2,900万円の債務超過状態です。

■サンジェルマンの財政状態(単位:百万円)

※「株式会社サンジェルマンの株式取得に関するお知らせ」より

ただし、クリレスは株式の取得日までに債務超過は解消される予定だとしています。

一時的に債務超過が解消されたとしても、サンジェルマンはコロナ前から赤字に陥っており、立て直しには時間がかかるものと予想できます。クリレスは株式の取得と同時に、グループで和食レストランを運営するいっちょう(群馬県太田市)の社長を務める濱埜直人氏にサンジェルマンの代表を任せる計画です。

サンジェルマンの現在の社長である赤須正浩氏は、工場長や製造本部長といった経歴を重ねてきた人物。製造部門の知識や経験は豊富ですが、出店戦略やマーケティング、消費動向などの販売戦略面には強くないと予想できます。クリレスは外食の専門家を送り込んでテコ入れを図ります。

喫茶店のルノアールもベーカリーショップを開業

ベーカリー、パン業界の再編が進んでいます。

小田急電鉄<9007>のグループ傘下にある北欧トーキョー(神奈川県座間市)は、2022年3月に運営するベーカリーショップ10店舗をドンク(兵庫県神戸市)へ譲渡しました。北欧トーキョーは小田急電鉄の完全子会社として、ベーカリー「HOKUO」39店舗を展開していました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大で事業環境が急悪化。事業譲渡の対象となる10店舗はドンクのもとで営業を継続するものの、それ以外の店舗は2022年2月末で閉店しました。

ドンクは1905年創業、売上高は連結で300億円を超える大手ベーカリー企業。小田急電鉄は非中核事業を切り離し、老舗のパン会社が運営を引き継ぎました。

2022年8月には山崎製パン<2212>が、神戸屋(大阪府大阪市)の包装パンとデリカ食品事業を譲受すると発表しました。神戸屋は業界4位のパンメーカー。冷凍パンやフレッシュベーカリー・レストラン事業に経営資源を集中するため、最大手の山崎製パンに周辺事業の売却を決めました。

コロナ禍で商環境が激変した外食企業は、次々とパン業界に進出しています。

カフェを運営するサンマルクホールディングス<3395>は、2022年7月に国内で14店舗を展開するベーカリーショップ「ohana」の運営会社グリーンルーム(埼玉県本庄市)とマスターフランチャイズ契約を締結。サンマルクは国内外に800店舗以上展開しています。そのネットワークを活かし、「ohana」の全国FC展開をバックアップします。

銀座ルノアール<9853>は、2021年9月にベーカリーショップ「BAKERY HINATA」をオープンしました。ルノアールは繁華街を中心に出店し、会社員を主要なターゲットとして喫茶店を運営してきました。「BAKERY HINATA」はさいたま市の国道沿い、27台の駐車スペースを持つ郊外のロードサイド型店舗。子育て世代をメインターゲットとしました。

サンマルク、ルノアールともにコロナで打撃を受け、ビジネスモデルの転換を余儀なくされました。ベーカリーショップは既存の取引先が活用できるなど新規参入しやすい業態です。

パンは消費者の支出額が米に比べて高いうえ、世代のばらつきがないというメリットがあります。

総世帯におけるパンの年間支出額は2010年に米を上回りました。米の支出額は2015年に20,000円を割り込み、2021年は16,962円まで減っています。

総務省統計局「家計調査」より


全世代の食費に対するパンへの支出額も安定しています。パンへの支出割合は高齢になるほど減る傾向はありますが、3.0%以上は維持しています。パンを扱う会社は、流行やターゲットの動向に振り回されることなく、幅広い客層にアプローチすることが可能です。つまり、ベーカリーショップは立地条件によって繁盛店を作りやすい業態だと言えます。

原料価格は高騰していますが、パンの製造は大量生産をすることで原価の低減を図れます。ベーカリーショップを持つ会社は店舗数を拡大した方がコスト面では有利になります。

大手パンメーカーは傘下にベーカリーブランドを数多く抱えています。Pascoブランドの敷島製パン(愛知県名古屋市)は、子会社レアールパスコベーカリーズ(東京都目黒区)を通して、ベーカリーショップ「PAUL」「Falar」「PECK」「FAUCHON」「ポールボキューズベーカリー」「ボンデール」などを運営しています。

鉄道会社を中心にベーカリーショップを非中核事業として運営しているケースは多く、今後は外食やパン専門の会社が事業を譲受するケースは今後も増加する可能性があります。

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