2022年上期のM&A、「海外」低調も最多ペースで折り返す

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TOBの渦中にある東洋建設(都内の建設現場)

2022年上期(1~6月)のM&A件数(適時開示ベース)は前年同期比12件増の458件で、リーマンショック(2008年)後の年間最多を記録した前年を上回るペースを示した。ただ、ウクライナ危機、急激な円安が続く中、国境をまたぐ海外M&Aが落ち込み、国内M&A主導の展開が鮮明になっている。一方、取引金額は3兆68億円で、前年同期(5兆3936億円)を4割以上下回った。

海外M&A低調も、国内が活況

上場企業の適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

M&A件数は累計で5月まで前年を下回っていたが、上期を締めくくる6月の件数が大幅に増加したことから、プラスに転じた。上期の総件数458件の内訳をみると、日本企業同士の国内M&Aが前年同期比27件増の386件に対し、海外M&Aは同15件減の72件。

海外M&Aはコロナ禍初年の2020年に大きく落ち込み、昨年来、回復途上にあった。しかし、今年に入って、ロシアのウクライナ侵攻に伴う地政学的リスクの高まり、米国の金融引き締めによる急激な円安進行などで経済環境が一変し、海外M&Aに慎重姿勢が広がる形となっている。

海外M&Aが低調に推移する中、とりわけ目立つのが日本企業による買収、つまりアウトバウンド型の不振だ。この結果、2022年上期はアウトバウンド型が38件(前年51件)、外国企業が買い手となるインバウンド型が34件(同36件)と、半期段階ながら、両者がほぼ拮抗する異例の展開に。

コロナ前の2019年上期をみると、89件の海外M&A中、アウトバウンド型が69件、インバウンド型が20件とアウトバウンド型が圧倒的に優勢で、現在とは様変わりだ。

中止案件はホクリヨウなどの3件

上期中、M&Aでいったん合意を発表しながら、条件が最終的に折り合わず白紙となった中止案件は3件あった。ホクリヨウはトーチク(札幌市)から鶏卵事業、Fast Fitness Japanはドゥワーク(東京都港区)から24時間ジム「エニタイムフィットネス」事業(33店舗)、インヴァストはKOYO証券(東京都中央区)の買収をそれぞれ取りやめた。

このうち、ホクリヨウが事業の買収を中止した相手のトーチクは鶏卵最大手のイセ食品の傘下。イセ食品は「森のたまご」「伊勢の卵」などのブランドで知られるが、3月に事実上経営破綻し、会社更生手続きの開始決定を受けた。

M&Aの新スキームとして2021年3月に登場したのが「株式交付」。完全子会社化しない場合でも、自社株式を対価として子会社化が行えるのが利点で、企業再編の促進を狙いに創設された。しかし、今年上期の活用事例は1件(1月)のみ。前年は上期に3件、年間で計6件の活用があったが、2年目は鳴かず飛ばずに近い状態に陥っている。

TOB“第2ラウンド”の東洋建設

TOB(株式公開買い付け)の不成立は1件。前田建設工業を中核とするインフロニア・ホールディングスが海洋土木大手の東洋建設に対して子会社化を目的にTOBを行ったが、東洋建設株価は買付価格を上回る高値が続き、不調に終わった。

また、敵対的TOBは上期中ゼロ。前年は上期だけで5件発生したが、一転、鳴りを潜めた。そうした中、帰すうが注目されているのが“第2ラウンド”を迎えた東洋建設。

同社をめぐっては別に、任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス」(YFO、東京都港区)がTOBを提案中。ヤマウチ側はTOB開始時期について当初、6月下旬をめどとしていたが、その後の両社の協議などを踏まえ、現在は9月下旬をめどとしている。対する東洋建設は買収防衛策の導入を撤回した。

一方、2022年上期の取引金額は3兆68億円で、前年同期を約2兆4000億円下回る。前年は日立製作所による1兆円を超える大型買収があったのに対し、今年の金額トップは米投資ファンドのKKRが最大4492億円を投じて日立物流をTOBで傘下に収める案件。これを含めて1000億円以上は6件と前年上期(11件)のほぼ半分にとどまる。

もっとも、100億円以上で括った場合、その数は44件(国内案件・海外案件各22件)と前年上期(33件)を11件上回る。突出した案件こそ減ったものの、100億~1000億円未満のクラスが件数を稼いでいる姿が浮かび上がる。

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文:M&A Online編集部