100歳会長の退任慰労金16億円、「世間相場」ならいくら?

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「タクシーM&A王」の特別功労金15億9400万円が話題に(写真はイメージ)

タクシー国内最大手の第一交通産業<9035>を創業した黒土始会長が6月に退任し、特別功労金15億9400万円が支払われる。しかし、2022年3月期の同社決算での営業利益は3億4000万円。2期ぶりの黒字転換だったが、特別功労金の支払いで当期純損益は8億4200万円の赤字になった。株主総会で議論を呼びそうだが、この支給額は高いのか?それとも適正なのか?

M&Aで日本最大のタクシー会社に成長

黒土会長は1960年6月に同社の前身となる第一タクシー有限会社を設立し、社長に就任。2001年6月に代表取締役会長、2015年11月に取締役創業者名誉会長、2017年7月からは代表取締役創業者名誉会長を務めている。代表取締役を60年、取締役を含めると62年にわたって同社の経営をリードしてきた。

100歳で勇退する第一交通産業の黒土会長(同社ホームページより)

特筆すべきはM&Aだろう。2010年以降だけでも35社を買収しており、そのほとんどがタクシー会社だ。M&Aで保有台数を増やし、2022年3月末で8074台のタクシーを保有。業界2位で東京を地盤とする日本交通(東京都千代田区)の6939台(2021年11月末、業務提携会社分2643台を含む)を引き離している。

北九州市で創業し、M&Aを駆使して日本最大のタクシー会社に育て上げた黒土会長の功績は大きい。ただ、特別功労金の一般相場と比べてみると、どうか?役員慰労金の計算方法には「功績倍率法」と「1年当たり平均法」の二つの方法がある。通常は功績倍率法を使うので、この計算式で見てみよう。

功績倍率法の計算式は

役員退職慰労金=退職時の月額報酬×勤続年数×功績倍率

となる。

「功績倍率」は役職によって違い、創業者である代表取締役では3.0倍から3.4倍が相場だ。黒土会長の年収は2021年3月期に3億1000万円で、2022年3月期も同額とすると月額報酬は約2580万円となる。勤続年数は62年間で、2年間は代表権のない取締役だが実質的な経営トップであり、全期間を代表取締役の功績倍率で計算するのが妥当だろう。

世間相場なら50億円、理由は62年もの在任期間

そうすると黒土会長の特別功労金は、48億〜54億4500万円が「世間相場」となる。これだけ高額になるのは、62年という異例の在任期間によるもの。例えばトヨタ自動車<7203>の豊田章男社長が代表取締役を62年務めると115歳になる。創業社長でなければありえない金額なのだ。つまり15億9400万円という支給額は、世間相場の3分の1以下の「破格の安さ」と言える。

同社にしてみれば3億4000万円の営業利益で、さすがに50億円前後の特別功労金は出せなかったのだろう。上場企業だけに株主に反対されるのは目に見えているし、仮に非上場企業だったとしても世間相場の特別功労金を支払えば経営が傾きかねない。世間相場から見れば「格安」となる黒土会長の特別慰労金だが、株主はどう評価するのだろうか?

第一交通産業の買収案件一覧(2010年以降)

開示日 内 容
2010年2月1日 林タクシー(和歌山市)からタクシー事業を取得
2010年10月1日 京阪電気鉄道<9045>からタクシー会社4社を取得
2010年12月1日 ゴトウタクシー(山口県下関市)を完全子会社化
2011年4月1日 玉幡タクシー(山梨県甲斐市)を子会社化
2011年6月21日 タクシー会社の富田林交通(大阪府富田林市)を子会社化
2011年7月1日 水仙タクシー(沖縄県うるま市)を取得
2011年8月2日 白浜観光タクシー(和歌山県白浜町)を取得
2011年12月1日 柳井タクシー(山口県柳井市)を子会社化
2011年12月21日 光星ハイヤー(札幌市)からタクシー事業を取得
2012年1月10日 平良川タクシー(沖縄県うるま市)を取得
2012年1月12日 那覇バスターミナル(那覇市)の株式を取得
2012年2月29日 第一タクシー(名古屋市)からタクシー事業の一部を取得
2012年4月2日 ゑび須タクシー(神戸市)からタクシー事業を取得
2012年4月9日 勝山タクシー(松山市)を子会社化
2012年5月10日 八千代タクシー(名古屋市)を子会社化
2012年6月4日 東京滋賀中央タクシー(滋賀県長浜市)を子会社化
2012年8月2日 タクシー業の武田名鉄交通(甲府市)を子会社化
2012年12月3日 ひかりタクシー(福岡県中間市)を子会社化
2013年2月5日 小島タクシー(茨城県土浦市)を子会社化
2013年4月2日 相生神姫タクシー(兵庫県相生市)を完全子会社化
2013年4月10日 三光タクシー(長崎県佐世保市)を完全子会社化
2013年5月23日 タクシー会社の寿ハイヤー(札幌市)を子会社化
2013年7月2日 あづまタクシー(沖縄県うるま市)を子会社化
2013年8月2日 八光タクシー(京都市)を子会社化
2013年12月3日 名神タクシー(兵庫県尼崎市)を子会社化
2013年12月12日 長住タクシー(福岡市)を買収
2017年12月6日 タクシー会社のユナイテッドキャブ(東京都台東区)を買収
2018年9月3日 小倉商工会館(北九州市)を子会社化
2019年2月4日 広島合同タクシー(広島市)を子会社化
2019年4月16日 池田タクシー(大阪府池田市)の一部事業を取得
2019年7月19日 はとタクシー(広島市)を子会社化
2019年8月1日 戸畑タクシー(北九州市)のタクシー事業を取得
2019年12月27日 中国専業旅行社の西日本日中旅行社(福岡市)を子会社化
2020年2月12日 玖珂駅構内タクシー(山口県岩国市)を子会社化
2020年3月3日 タカモリタクシー(津市)を子会社化

文:M&A Online編集部

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