解消されたルノー・日産・ダイムラー3社提携の「中身と確執」

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日産自動車<7201>が独ダイムラーの持ち株約1.5%の全てを売却する。売却額は約10億ユーロ(約1300億円)の見込み。親会社の仏ルノーも2021年3月に保有するダイムラー株を全て売却しており、日産による売却も時間の問題とみられていた。2010年に始まった3社間の提携とはどんなものだったのか?

資本・業務提携で一時は世界3位のグループに

3社提携は2010年4月にルノー・日産アライアンス(連合)がダイムラー株を3.1%、ダイムラーがルノー株と日産株を3.1%ずつ持ち合ってスタート。ルノー・日産連合のカルロス・ゴーン会長とダイムラーのディーター・ツェッチェ会長(いずれも当時)のカリスマリーダー2人が提携に踏み切った。

当時、3社合計の世界販売台数は770万台で、トヨタ自動車<7203>、独フォルクスワーゲン・スズキ<7269>連合に次ぐ、世界第3位のグループに躍り出る。

当初の業務提携内容は、以下の4項目だった。

(1)ダイムラー「スマート」とルノー「トゥインゴ」の小型車共同開発
(2)ルノー・日産連合は3気筒と4気筒のガソリン・ディーゼルエンジンをダイムラーに、ダイムラーは日産の高級車「インフィニティ」向けに4気筒、6気筒のガソリン・ディーゼルエンジンを相互供給してパワートレインの共有化を図る
(3)ルノー・日産連合が商用バンの完成車とダイムラー「ヴィト」に搭載する小型ディーゼルエンジン・トランスミッションを供給する小型商用車での連携
(4)EVとバッテリー技術の共同開発といった協業分野拡大の検討

しかし、協業は思うように進展せず、3社は2016年9月に以下の4項目で提携関係のネジを巻き直そうとする。

(1)従来の欧州に加えて米州、アジアの3大陸で全領域(車両、エンジン、相互供給)の協業を展開
(2)ルノーのクレオン工場で生産されたモーターを搭載した新型ダイムラー「スマート フォーツー」、「スマート カブリオ」、「スマート フォーフォー」のEVモデル開発
(3)メルセデス・ベンツ初となるピックアップトラックの共同開発とスペイン・アルゼンチンのアライアンス工場での生産
(4)日産・ダイムラーのメキシコ・アグアスカリエンテス共同生産工場で、次世代プレミアムコンパクトカーを生産

「同床異夢」だったルノー・日産とダイムラー

いずれもルノーとダイムラーとの協業が主で、日産とダイムラーの間では2018年に(4)のアグアスカリエンテスに生産合弁会社「COMPAS」(COoperation Manufacturing Plant AguascalienteS)を総額10億ドル(1210億円=当時)で開設。日産の高級ブランド「インフィニティ」とメルセデス・ベンツが共同開発する「次世代プレミアムコンパクトカー」の生産に乗り出したが、稼働率は低迷しているという。

この他にも2014年に日産「スカイライン」でダイムラー製エンジンの供給を受けた「200GT-t」を発売したが、現在ではエンジン供給を終了している。2017年には日産のピックアップトラック「ナバラ」をベースにしたダイムラー「Xクラス」を発売したが、2020年5月に生産中止が決まった。日産としてはダイムラーとの協業が解消されたとしても、大きな問題が生じることはないだろう。

この3社連合が成功しなかった理由は、互いに求めるものが違ったことにある。「ベンツ」に代表される高級乗用車メーカーのイメージがあるダイムラーだが、本業はバス・トラックなどの商用車事業だ。大型商用車が強いダイムラーとしては、ルノー・日産連合に小型商用車の補完を期待した。

一方、ルノー・日産連合はダイムラーに高級乗用車での協業を期待した。ルノーは2012年に自社が筆頭株主だったスウェーデンのトラック大手、ボルボの全保有株式を売却。日産も2006年に自社が筆頭株主だった日産ディーゼル工業(現UDトラックス)の全保有株式をボルボに売却。両社とも商用車事業には興味を失っており、乗用車ベースの小型商用車のみを手掛けていた。

小型商用車を求めていたダイムラーと、高級乗用車を求めていたルノー・日産連合のミスマッチが最後まで埋まらなかったようだ。3社は資本関係が解消された後も業務提携は続けるとしているが、両者の基本戦略は変わらず求めるものを得るのは難しいだろう。いずれ業務提携も「フェードアウト」する可能性が高い。

文:M&A Online編集部