最近の「仮想通貨危機」が、これまでの「乱高下」とは違う理由

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「銀行はあなたの友達ではない」と書かれたTシャツを着たセルシウス・ネットワークのマシンスキーCEO(Photo By Reuters)

またしても仮想通貨(暗号資産)が「危機」に見舞われている。「仮想通貨に乱高下は付き物。暴落している今こそ買いのチャンス!」との声もあるが、そう楽観するのは早計かもしれない。これまでの「下落」とは様相が異なる。

仮想通貨の引き出し停止が多発

仮想通貨レンディング(貸出業)の米セルシウス・ネットワークは6月12日に、仮想通貨の引き出しを停止した。同社は顧客から預かった仮想通貨を仮想通貨取引所に貸し出したり、高金利・高リスクの分散型金融(ディーファイ)に投資したりしていたという。同社のアレックス・マシンスキーCEOは悪化した財務問題に対応中だとツイッターで説明している。

17日には香港の仮想通貨融資プラットフォームBabel Financeが「異常な流動性圧力に直面している」として、23日にも同じ香港の仮想通貨先物取引所のCoinFLEXが「極端な市場状況」を受けて、それぞれ引き出しを停止した。

仮想通貨の下落は今に始まったことではない。しかし、最も重要な事実は、先進国が政策金利の引き上げに走ったという外部環境の激変だ。コロナ禍からの経済活動再開とロシアによるウクライナ侵攻の影響で急騰した物価引き下げを狙った措置である。

利上げは物価下落には「まどろっこしい」手段であり、コスト高やモノ不足が解消されるまで効果は見えない。一方、仮想通貨の下落には速攻で効いてくる。なぜなら仮想通貨の相場を引き上げていたのは、歴史的な低金利で市場にあふれかえっていた余剰資金、いわゆる過剰流動性だからだ。

政策金利上昇が引き金に

設備投資、不動産投資、株式投資と回り、それでも吸収できない大量の資金が仮想通貨市場に流れた。加えてゼロに近い利率で「金庫代わり」にしかならない銀行預金を利回りの良い仮想通貨の運用に振り替える個人資産も流入し、仮想通貨市場を支えてきた。

しかし、政策金利の引き上げで状況は一変する。これまでは下落しても、低金利で行き場のない資金が仮想通貨の「買い」に戻ることで持ち直してきた。このまま金利上昇が続けば、「戻ってくる資金」は徐々に細っていく。仮想通貨の価格が戻るにせよ、ゼロ金利下のような大幅な値上がりは期待できない。

さらに仮想通貨の「セーフティーネット」への信頼も揺らいでいる。仮想通貨業界は過去にあった暴落の反省から、長期的に持続可能な市場システムを構築する努力をしてきた。その一つが「ステーブルコイン」。基軸通貨であるドルと同価値を持つように設計された仮想通貨だ。

代表的なものが韓国の起業家でTerraform Labs(シンガポール)最高経営責任者(CEO)のド・クォン(權渡衡)氏が開発した「テラUSD」。テラUSDは「ルナ」というトークン(独自のブロックチェーンを持たない仮想通貨)と交換して利用する。テラUSDが1ドルを下回ると、流通する同仮想通貨を「焼却」して1ドル相当のルナと交換することで価格を維持する仕組み。

とはいえ、運営サイドが発行済のテラUSDやルナに見合うドルを保有していたわけではない。システム上で仮想通貨間のバランスを取ることで価値を安定させる「アルゴリズム型ステーブルコイン」だった。テラUSDが下落したらルナが値上がりすることで価格を安定させる手法だ。

次の低金利時代まで仮想通貨市場は沈静化か

併せてTerraform Labsは銀行のような仮想通貨プラットフォーム「アンカー・プロトコル」を立ち上げ、20%近い金利でビットコン、イーサなどの比較的安定した仮想通貨やドルとテラUSDとの交換を促した。決済アプリや投資アプリを介して「テラUSD経済圏」づくりに取り組むなど、普及によって信頼性を高める工夫もした。

だが、政策金利の上昇で仮想通貨市場から資金が引き上げられる懸念を受けて、テラUSDとルナが同時に暴落。テラUSDが下落すれば、ルナが上昇して価値を維持するという目論見は完全に外れた。仮想通貨市場は下落したテラUSDはもちろん、値上がりしたルナも「要らない」と突き放したのだ。

政策金利が上昇すればリスクの高い商品から資金が引き上げられるのは「常識」だった。加えて市場から一定の信頼を得ていたテラUSDのセーフティーネットが「期待はずれ」で終わったことで、高リスクの暗号資産の暴落は自明だったといえる。

再び仮想通貨が息を吹き返すとしたら、仮想通貨市場が縮小してわずかな資金でもマーケットが回る「ニッチ化」しかない。生き残ることができるのはビットコインのような供給上限が設定されている仮想通貨か、USDコインやテザーなどのようにドル準備金や米国債などで完全に裏付けされているリアルなステーブルコインぐらいだろう。

もちろん再び「ゼロ金利」時代が訪れれば、仮想通貨に大量の余剰資金が舞い戻ってくる可能性が高い。次に仮想通貨で資産運用の「勝負をかける」としたら、その時を待った方が良さそうだ。

文:M&A Online編集部

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