ロシアが万難を排してまでウクライナを手放さない「本当の理由」

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(Photo By Reuters)

ロシアによるウクライナへの軍事的圧力が日に日に高まっている。米国や欧州連合(EU)はロシアに対する外交圧力を強めると同時に、北大西洋条約機構(NATO)も臨戦態勢に入り、東欧へ艦船や戦闘機を追加派遣している。万一、開戦となった場合は、日本を含む西側諸国が厳しい経済制裁を実施する構えだ。まさに一触即発の状態。なぜロシアはリスクが高い軍事行動への動きを加速しているのか。

「歴史認識」の違いが生んだ危機

ジョー・バイデン米大統領は18日、「ウラジーミル・プーチン露大統領がウクライナ侵攻を決断したと確信している」と警鐘を鳴らすと、ロシアのアントノフ駐米大使は即座に「米国は見え透いたうそを世間に印象づけようとしている」と非難した。

当然ながらNATOの東進を阻止する国防上の目的や、西側自由主義に対する政治的な防波堤づくり、軍事行動を引き起こすことでプーチン大統領の支持率を引き上げるといった狙いもある。ただ、それだけではウクライナという人口4130万人を擁する欧州第8位の大国に軍事侵攻する理由としては弱い。

ロシアがハイリスクな軍事侵攻に踏み切ってでもウクライナを「手放さない」のは、ロシア人にとってウクライナが自国の一部との文化的な認識があるからだ。プーチン大統領が2021年7月に「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」と題した論文を発表。この中でロシア人とウクライナ人は「東スラブ民族という一つの民族である」と主張した。

これはウクライナ侵攻に向けた急ごしらえの論文ではない。ロシア人にとっては、これこそが「歴史的な事実」であり、ウクライナ人や欧州諸国が主張するロシアと切り離されたウクライナは「歴史の改竄(かいざん)」なのだ。

ロシアにとってウクライナは日本の奈良・京都

そもそもロシア史は882年にノヴゴロド公オレグがキエフを征服し、東スラヴの北部と南部を統一したキエフ大公国、いわゆる「キエフ・ルーシ」の建国から始まる。「キエフ」は現在のウクライナの首都だ。「ルーシ」はロシアやベラルーシの国名の語源となっている。

ロシア文学の歴史的な名作の「イーゴリ遠征物語」、ニコライ・ゴーゴリの「外套」や「死せる魂」などは、ウクライナの作品だ。共産主義体制崩壊後に社会的影響力が高まった宗教では、両国の「同一性」が際立つ。ロシア、ウクライナともに東ローマ帝国を源流とするキリスト教正教会が主流で、2013年7月にウクライナで開かれた「キエフ・ルーシ洗礼1025周年記念式典」にはプーチン大統領も出席した。

ロシア文学研究者によれば「ロシア人にとってウクライナがロシアではないというのは、日本人が奈良や京都が日本ではないというのと同じ」らしい。

つまりロシア人から見た現在の状況を日本で再現すれば、何らかの理由で日本が東日本(ロシア)と西日本(ウクライナ)に分かれ、西日本政府が「わが国は、もはや日本(ロシア)ではない」と主張し、中国(西側諸国)と安全保障条約を結んで西日本各地に中国人民解放軍(NATO軍)の進駐を許すという状況だ。東日本政府にとっては文化的、政治的、安全保障的に容認できないだろう。

もちろん、これはロシア人の歴史認識であり、ウクライナ人のそれとは全く違う。ただ、日韓関係や日中関係を含め、隣国同士の歴史認識が食い違うことは世界中である。それだけにロシアとウクライナの問題は、日本を含め世界中のどこの国でも起こりうる事態なのだ。決して「対岸の火事」ではない。

文:M&A Online編集部

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