トランプ前米大統領のツイッターアカウントが「復活」することになった。SNS大手の米ツイッターを買収したイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が11月20日、自らのアカウントで実施した投票の結果、賛成が反対を上回ったとしてトランプ氏のアカウント復活を決めた。しかし、当のトランプ氏は喜ぶどころか「ツイッターで復活する理由がない」と冷ややかだ。なぜか。
トランプ氏は2021年の米連邦議会議事堂襲撃事件を引き起こしたとしてツイッターのアカウントが永久凍結されると、同2月に「ツイッターやフェイスブック、YouTubeといった従来のソーシャルメディアに挑戦するための代替メディアを提供する」ため、トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)を立ち上げた。
トランプ氏は同社を通じて自前のSNS「トゥルース・ソーシャル(真実の社会)」とオンデマンド動画配信サービス「TMTG」のを開設した。実はこのTMTGは、トランプ氏の政治的な情報発信を目的としているのではなく、新たな収益源すなわち「ビジネス」なのだ。
TMTGは2021年10月に特別買収目的会社(SPAC)のDigital World Acquisition Corp.と経営統合し、上場を目指す合併契約を締結したと発表した。SPACは上場した時点では具体的な事業が存在しないペーパーカンパニー。上場(IPO)後に株式市場から調達した資金で有望な未公開会社を買収して、ペーパーカンパニーに具体的な事業を取り込む仕組み。Digital Worldには約2億9000万ドル(約407億円)の手元資金がある。
トランプ氏はDigital Worldとの経営統合により、経営が厳しいTMTGの資金調達を図ろうとしている。が、SPACの投資家は、取引完了前に資金を引き出す権利を持つ。米国では急激な金利上昇とスタートアップ企業の経営難が相次いで表面化していることから、SPACからの資金引き上げが急増している。
そうした逆風下でトランプ氏がツイッターでの投稿を再開すれば、「トゥルース・ソーシャル」の事業価値は低下する。トランプ氏にとって「ツイッター」は、自社サービスの商売敵なのだ。ツイッター側がトランプ氏に投稿の見返りに何らかの経済的なメリットを与えない限り、「トゥルース・ソーシャル」に誘導するための「顔みせ」はあっても、本格的な復帰はないだろう。
ただ、Digital Worldは2021年5月に米国証券取引委員会(SEC)へ提出した目論見書で「特定の企業統合目標を選択しておらず、直接または間接に実質的な議論を開始したことはない」としていたが、同3月に両社が接触していた疑惑も取り沙汰されている。その場合は米証券法や証券取引所規則に違反するおそれもあり、先行きは不透明だ。
契約によると両社の合併期限は最長で2023年3月8日まで。それを過ぎるとDigital WorldはIPOで調達した資金を、株主に返還しなくてはならない。経営統合によるTMTGの上場ができなかった場合、トランプ氏が「トゥルース・ソーシャル」を閉鎖して影響力の強いツイッターに復帰する可能性は残っている。
文:M&A Online編集部
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