ついに米国で「低調」に転じたM&A、日本はどうなる?

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ウォール街も余剰資金の減少で金融大手の「稼ぎ頭」が一変(写真はイメージ)

米国でM&Aが下火になっている。JPモルガン・チェースはじめ米金融大手6社の2022年4~6月期決算で、全社が大幅減益という結果になった。インフレに伴う景気低迷懸念から、貸倒引当金の繰り入れなど不良債権処理費用が増加。さらに株式市場が不透明性を増したことで企業の株式発行にブレーキがかかり、買収資金の融資や高額の手数料で「稼ぎ頭」となっていたM&Aも振るわなかった。

政策金利の急騰で米国のM&A市場が一気に冷え込む

米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、代わって2008年のリーマンショックで大打撃を受けた債券・為替・商品(FICC)事業が活況を呈しているという。M&AとFICCの明暗を分けたのは政策金利だ。

FICCは長引く超低金利下では旨味がなく、「鳴かず飛ばず」の状況が続いてきた。が、このところの相次ぐ利上げでFICCの収入は、直近の四半期で前年同期比35%以上の増加したという。米ゴールドマン・サックス ・グループは、同期のFICC収入が同55%増の36億ドル(約4970億円)になったと発表している。

半面、利上げが逆風になったのは株式発行やM&Aだ。ゴールドマン・サックスの株式引き受け収入は同89%の大幅減に沈んだ。インフレによる景気停滞懸念で業績の悪化や、それに伴う株価の下落が懸念されているからだが、それだけではない。これまでテック株を中心に株価をつり上げたのは、超低金利政策で市中にあふれていたマネーだ。

同様にM&Aに必要な巨額の資金調達ができたのも、同じく余剰マネーのおかげだった。金利が急激な上昇に転じたことで、新株購入やM&Aを実施するマネーの「タマ」が枯渇し始めている。そのため企業は新株発行やM&Aに慎重になっているのだ。

日本は件数は増えたが、取引金額は低調

一方、日本はどうか?M&Aの件数は好調だ。2022年上期(1~6月)のM&A件数(適時開示ベース)は前年同期比12件増の458件で、リーマンショック後の年間最多を記録した前年を上回るペース。累計で5月までは前年を下回っていたが、上期を締めくくる6月の件数が大幅に増加したことからプラスに転じた。

これは日本の政策金利引き上げが進んでおらず、利上げ進行中の米国に比べるとM&Aに投じる資金に余裕があるためと見られる。とはいえ、日本でも「利上げは時間の問題」との見方が有力で、すでにその兆候が出始めている。M&Aの取引金額だ。

2022年上期の取引金額は3兆68億円で、前年同期を約2兆4000億円も下回っている。前年同期は日立製作所による1兆円を超える大型買収があったのに対し、今年の金額トップは米投資ファンドKKRが最大4492億円を投じて日立物流をTOBで傘下に収める案件。

これを含めて1000億円以上は6件と、前年上期(11件)のほぼ半分にとどまる。迫る利上げを懸念して、超大型M&Aを回避する動きが顕著になったと言えそうだ。取引金額で見れば、すでにM&A市場は冷え込み始めている。

しかし、インフレによる景気後退が直撃すれば企業経営は苦しくなる。M&A資金を調達しやすい今のうちに事業規模の拡大や新規事業への進出といった、生き残るための「堅実なM&A」で駆け込み需要が起こる可能性もある。6月の国内M&A件数大幅増は、その「始まり」かもしれない。

文:M&A Online編集部

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