カーレースの世界最高峰「フォーミュラ1(F1)」に200億ドル(約2兆5950億円)もの巨額買収話が浮上している。現在F1の興行権を持つ米リバティ・メディアは、この申し出を断った。だが、F1をはじめとするカーレースの統括団体である国際自動車連盟(FIA)のモハメド・ベン・スレイエム会長は、巨額買収話そのものに警戒感を露わにしている。なぜか?
「FIAは200億ドルにまで膨れ上がった値札がF1に付けられたと伝えられていることを警戒している」と、スレイエム会長は今回の買収話に対する不快感を隠そうともしていない。
スレイエム会長は「買い手となる可能性のある者は、単に大金を持って来るだけでなく、常識を持ってスポーツのより大きな利益を考慮し、明確で持続可能な計画を持ってくるよう」訴えた。
リバティ・メディアは2017年に前オーナーのCVCキャピタル・パートナーズから46億ドル(約5970億円)でF1を買収している。わずか5年間でおよそ4.3倍に値上がりしたわけだ。
F1買収にはサウジアラビア政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンドとサッカーの英プレミアリーグに所属するニューカッスル・ユナイテッドFCが名乗りをあげていた。両社の競合が買収価格をつり上げたようだ。
リバティ・メディアが200億ドルでの買収を拒否したのも、買収金額のさらなる引き上げを狙った可能性もある。いずれにせよ買収価格の高騰はF1の「ブランド価値」が上がっている証拠であり、統括団体であるFIAにとっても「悪い話」ではないはずだ。
しかし、スレイエム会長は「開催料やその他の商業コストの増加により、プロモーターにとって将来的にどのような影響が生じるのか?それによって、ファンに悪影響が及ばないかといったことを考慮するのが私たちの義務だ」と難色を示している。
F1放映権が高騰して2023年の日本でのF1放送中止が懸念されるなど*、F1に関わるコストは上昇の一途だ。買収金額が跳ね上がれば、放映権はもちろん入場券や関連グッズの価格も高騰する。行き過ぎると、F1が一部の富裕層相手のスポーツになってしまう。
「F1ビジネスの付加価値が上がるのだから、結構なことではないか」との見方もある。が、富裕層とはいえ限られた少数顧客に依存するマーケットとなれば、外部環境の変化で存亡の危機に陥りかねない。特にF1には電気自動車(EV)シフトにより環境保護の意識が高まって、人気が凋落するリスクもある。ファン層の縮小を招きかねい高額買収にFIAが警戒感を抱くのも当然なのだ。
文:M&A Online編集部
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