「クレベリン」で業績急降下の大幸薬品、どこで間違えた?

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「好事魔多し」とは、このことかもしれない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大で一時は品薄となった空間除菌剤の「クレベリン」だが、あっという間に売れ行きが落ちて在庫の山に。1月20日には消費者庁から景品表示法(景表法)に基づく措置命令が下され、苦境に追い込まれている。大幸薬品はどこで間違えたのか?

「空間除菌」で業績は乱高下

同社が2月18日に発表した2021年12月期決算によると、当期純損益が前期の31億円の黒字から95億円の赤字に転落した。「クレベリン」の不振が原因で、在庫増に伴う棚卸資産評価損は37億円に達している。同期の売上高は112億円、営業損益は49億円だったので、当期赤字は売上高に匹敵するレベルだ。

ここまで赤字が拡大した背景には、「クレベリン」人気の読み違えと、痛恨の戦略ミスがあった。同社は下痢や食あたりに効能がある「正露丸」のメーカーとして知られていた。転機となったのは2005年4月、二酸化塩素を用いた衛生管理製品として「クレベリン」を発売したのだ。

2020年に入りコロナ禍が始まると、置くだけでウイルス除去が可能という「クレベリン」に消費者が殺到。2020年3月期には「クレベリン」を含む感染管理事業が医薬品事業を売上高で追い越し、同社の基幹事業となる。

2020年12月期は9カ月間という変則決算ながら、売上高が前期比43.6%増の175億8200万円、営業利益が同88.4%増の38億2400万円、当期純利益が同73.3%増の38億5100万円と、いずれも過去最高を記録した。

2020年初めからの品薄に対応するため、同11月に約23億円をかけて茨木工場(大阪府茨木市)を建設。「クレベリン」置き型の生産能力を約10倍に引き上げた。ところが、うなぎのぼりだった「クレベリン」の販売に急ブレーキがかかる。

消費者庁から8年ぶりの「待った」

在庫が積み上がり、新工場稼働から5カ月後の2021年4月に「クレベリン」の生産はストップした。2022年1月に受けた措置命令が売れ行きにダメージを与えるのはもちろんのこと、返品も見込まれるため返品調整引当金6億5200 万円を前期決算に繰り入れている。

もともと「クレベリン」に代表される「空間除菌」商品には、その効果について疑問の声が上がっていた。消費者庁は2014年3月、グレペリンの「室内に置くだけで、室内の空間において、放出される二酸化塩素がウイルス及び菌を除去する」かのような表示が景表法に定める優良誤認表示に該当するとして措置命令を出す。

この時は大幸薬品が「ご利用環境により成分の広がりは異なります」などと注意を喚起する文言を入れるなどして対応した。その後も同社はスプレーやスティックペンタイプ、スティックフックタイプの「クレベリン」を追加投入したが、消費者庁から「お咎(とが)め」はなかった。

ところが2021年11月26日に、大幸薬品は「クレベリン」6製品に関する措置命令案を消費者庁から提示される。同社は学術論文などの科学的根拠資料を提出して同庁に弁明したが受け入れられなかったため、同12月14日に東京地裁で措置命令の差し止め訴訟を起こし、併せて仮差し止めの申し立てをした。

東京地裁は1月13日に「クレベリン」置き型の2製品については仮差し止めを認めたが、残る4製品については退けた。大幸薬品はこれを不服として東京高裁に即時抗告した。その1週間後に東京地裁から仮差し止めを退けられた4製品について、消費者庁が措置命令を下したのだ。

同社は「この措置命令は誠に遺憾と受け止めており、速やかに必要な法的措置を講じてまいります」とのコメントを発表。徹底抗戦の構えだ。

「ブーム」の発生が命とりに

2014年に比べると消費者庁、大幸薬品ともに対決姿勢を露わにしているように見える。消費者庁としてはコロナ第6波で過去最大の感染者を出す状況下で、エビデンスのない「空間除菌」を認められない。消費者も報道やネット上の注意喚起で「空間除菌」に懐疑的になっており、コロナウイルスの感染防止に役立つかのようなPRをしている製品を野放しにしておくと消費者庁の存在意義は問われる。

大幸薬品としても「ウイルス・菌・カビ・ニオイのすべてを除去できるものではありません」「ご利用環境により、成分の広がりは異なります」と説明するなど、消費者庁との「妥協」も見せてきた。しかし、今となっては「クレベリン」は同社の主力製品で、多額の設備投資をしている。ここで「実用上のエビデンスがない」などと広告で追記する事態は、なんとしても避けたいはずだ。

そもそも2020年の「クレベリン」ブームは、消毒剤が不足して店頭から姿を消したため、その代用品として需要が急増した可能性が高い。しかも、そのブームが「空間除菌は本当に効果があるのか?」との疑念を呼び起こすキッカケとなってしまった。

仮にコロナ禍がなければ、ブームもなかった代わりに「空間除菌」が良い意味でも悪い意味でも話題になることなく、「固定客」向けに安定した販売が続いていただろう。

なにより22億2800万円もの固定資産の減損損失を招いた設備投資を実行することもなかった。「クレベリン」ブームを長期的なものと読み違えたことが、大幸薬品の「最大の失敗」だったと言えるだろう。

文:M&A Online編集部

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