DeNAがプロスポーツチームを相次ぎ買収、その狙いと背景は?

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DeNAが買収した横浜スタジアム(同社発表資料より)

ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>のプロスポーツチーム買収が加速している。2011年の横浜市のプロ野球に始まり、2018年に川崎市のプロバスケット、2023年に相模原市のプロサッカーと、神奈川県下の政令指定都市を拠点とするチームを買収している。その狙いは何か?

プロスポーツの収益化が買収の狙いとなった

DeNAの南場智子会長は、同社のスポーツビジネスについて五つの目標を挙げる。「ファンのDelight(喜び)が最上位」「ビジネスとして成り立たせる」 「リーグは劇場、皆で栄える」「長い時間軸で考える」「アリーナやスタジアムなど物理環境との一体経営」だ。

このうち同社のプロスポーツ戦略を考える上で注目すべきなのが、「ビジネスとして成り立たせる」と「アリーナやスタジアムなど物理環境との一体経営」だ。プロチームを買収する企業は、これまでも数多くあった。しかし、2010年代までのプロチームは「広告塔」として買収されるケースがほとんどだった。

戦後いち早くプロスポーツとして日本に定着したプロ野球ですら、球団経営の赤字をオーナー会社が「広告宣伝費」代わりに補填(ほてん)するのが当たり前だった。しかし、2010年代に入ると米国のプロアメリカンフットボールリーグ「NFL」やプロ野球のメジャーリーグ、プロバスケットボールの「NBA」など年間1兆円を超えるプロスポーツ市場が登場したことから、「日本のプロスポーツにも伸びしろがあるのではないか」(南波会長)との見方が広がる。

DeNAは収益化(ビジネスとして成り立たせる)を目指して2011年にプロ野球球団を買収したわけだが、これが新たなプロスポーツ買収の嚆矢*となった。DMM.com(東京都港区)が2017年にサッカーのベルギー1部リーグのシント=トロイデンVVを買収したが、これも広告宣伝のためだけではなく、サッカー事業から収益を得られると判断してのことだ。

*こうし=物事のはじまり

スポンサー収入や不動産事業で収益化を実現する

DeNAは広告収入の増加やスポーツスクールの経営などで、収益をあげる仕組みづくりに成功している。プロ野球の横浜DeNAでは2012年から2022年までの10年間に放送権収入が2.0倍、チケット販売収入が2.2倍に増えたが、広告などのスポンサー収入は4.9倍と大幅に伸びている。

バスケット人気の上昇を受けてDeNAが買収した川崎ブレイブサンダースでも2018年から2023年までの5年間にスポンサー企業は18社から200社へ、スクール会員も30人か1600人へ急増している。DeNAは買収したばかりのプロサッカーチームのSC相模原でも同様の取り組みを展開する。

2018年にはRIZAPグループ<2928>がサッカーJ1リーグに所属する湘南ベルマーレを買収したが、こちらもトップアスリートを対象としたトレーニング法の開発に取り組み、獲得したノウハウや知見を本業の健康管理サービスや商品の開発に結びつけるのが狙いで、従来の広告宣伝のための買収とは一線を画す。

DeNAが目指す「アリーナやスタジアムなど物理環境との一体経営」は、プロスポーツの不動産ビジネス化を目指すものだ。不動産ビジネスとして見ると、球場は野球の試合よりもイベントで貸し出した方が利益が出る。しかもホームゲームは年間70試合程度で、多くの期間が「遊んでいる」状態だ。野球以外のスポーツも同様で、スタジアムやアリーナの維持管理費用が負担になっている。

そこで注目されているのが、維持費がかさむ「コストセンター」から利益を生む「プロフィットセンター」に変える「スタジアム・アリーナ改革」だ。2016年に横浜DeNAベイスターズが横浜スタジアムをTOBで買収したのも、不動産ビジネスでの収益化を目指したものだ。

ソーシャルビジネス化するプロスポーツ

三井不動産<8801>とプロ野球球団の巨人を所有する読売新聞社が東京ドームを株式公開買い付け(TOB)で買収したのも、再開発を含む不動産としての運用だった。DeNAも2026年春にオープンする横浜スタジアム周辺の「横浜市旧市庁舎街区活用事業」に参画するなど、球場を核とする不動産ビジネスを本格化する。川崎ブレイブサンダースでも、試合以外での活用を織り込んだ新アリーナの建設を検討している。

収益化につながるビジネスモデルが見えてきたことで、主にIT企業による事業投資としての国内プロスポーツチーム買収が活発になっている。

サッカーでは2018年にメルカリ<4385>が鹿島アントラーズを、2019年にはサイバーエージェント<4751>がFC町田ゼルビアを、2020年にはヤフーが横浜FCを買収。バスケットボールでは2022年にセガサミーホールディングス<6460>がサンロッカーズ渋谷を、識学<7049>が福島ファイヤーボンズをそれぞれ買収した。

収益化が可能なプロスポーツチームの買収は、投資する親会社に収益をもたらすだけではない。選手の生活やライフプランの向上、本拠地となる都市の活性化、関連事業の拡大による経済効果など、社会的なメリットが大きい。スポーツ振興とまちづくりを実現するソーシャルビジネスとも言える。

プロ野球の買収には数百億円かかるが、プロサッカーは50億円、プロバスケットは10億〜20億円と大手企業の買収案件としては手を出しやすい。さらに買収価格が安い女子サッカーやバレーボールなどの買収であれば、大手企業でなくても買収できる。プロスポーツチームの買収は、さらに加速するだろう。

文:M&A Online編集部

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