「議席を減らしそうな米民主党が、なぜ善戦?」11月8日の米中間選挙で民主党の「善戦」が大きく伝えられている。しかし、選挙前は上院、下院ともに民主党が過半数を制していたが、現時点で下院は米共和党の過半数超えが確実。上院でも共和党が過半数を握る可能性が残っている。どう見ても民主党の「負け戦」だが、メディアはなぜ「善戦」と評価するのか?
一つは民主党の「惨敗」が予想されていたためだ。中間選挙は政権に対する「中間評価」とされ、バイデン大統領の支持率は10月下旬に39%と低迷していた。それで民主党が上院・下院で大きく議席を減らすと見られていたのだ。ただ、それでは単に「予想ほどは悪くなかった」だけの話であり、「善戦」と呼ぶには弱い。
実はもう一つ「善戦」の根拠がある。それは中間選挙では政権与党に不利な結果となるケースがほとんどだからだ。中間選挙による有権者の「中間評価」は手厳しいのが恒例で、「政権批判」の傾向が強い。「ここで一つお灸(きゅう)をすえてやろう」という投票行動が見られる。
第二次世界大戦後の政権1期目に実施された中間選挙では、平均で政権与党が下院の29議席を失っているという。唯一の例外は2002年の共和党ブッシュ・ジュニア大統領時代の中間選挙だが、これは前年に米同時多発テロが発生して有権者の間で愛国心が高まり、保守的な共和党に票が集まった特殊な事例だ。
つまり、民主党は下院で改選前の220議席から29議席を差し引いた191議席を獲得できれば「平均点」ということになる。投票前の予想では、それをはるかに下回る「惨敗」になると予想されていた。ところが現時点で民主党は184議席を確保し、勝敗が確定していない44議席のおよそ6分の1に当たる7議席を確保すれば歴代の「平均点」に達する。
仮に残り議席の半分を獲得すれば206議席と過半数の218議席には届かないものの、バイデン大統領の面目は立ち、民主党内での求心力も維持される。さらに米国議会ではほとんど党議拘束がかけられないため、共和党が過半数を押さえても、議席数が拮抗すれば共和党から離反者が出て民主党の法案が可決される可能性も出てくる。そうした懸念から共和党が民主党に歩み寄らざるを得ないケースも増えるだろう。
最も重要なのは、中間選挙が2年後の大統領選挙の風向きを変えることだ。今回の中間選挙でバイデン大統領が求心力を維持できれば、再選に向かって弾みがつく。一方、復活を狙い中間選挙の応援演説に飛び回った共和党のトランプ前大統領にとっては、期待されていた「大勝」が予想外の「辛勝」となれば次期大統領候補としての存在感が弱まる。
共和党支持者から「旬が過ぎた」と見なされれば、党の大統領候補を決める予備選挙で苦戦することになりそうだ。米CNNは「トランプ前大統領が共和党候補の結果に失望し、誰彼となく怒鳴りつけている」と伝えた。
中間選挙の評価次第では「トランプ旋風」が尻すぼみになるかもしれない。保守派中間層から根強い人気があるトランプ前大統領が次回の大統領候補にならないとしたら、「トランプ旋風」が吹き荒れた共和党で有力な候補者を見つけるのは困難だろう。
共和党では中間選挙で再選された44歳のロン・デサンティスフロリダ州知事が大統領候補として注目されているが、一筋縄ではいかない。トランプ前大統領はデサンティス知事が次回の大統領選に出馬を表明したら、同知事の打撃となりかねない情報を暴露すると牽制しているからだ。ポスト・トランプの候補者選びは難航するだろう。
一方、民主党にとってはバイデン大統領が再選を目指しても、あるいは別の候補が出馬しても有利に運ぶことになる。今回の評価は中間選挙の結果と言うよりも、2年後の大統領選挙の行方を占う上での「善戦」と解釈した方が正確だろう。
文:M&A Online編集部
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