ソニー<6758>は2020年12月10日、子会社を通じて米通信大手AT&Tの子会社でアニメ配信サービスの「クランチロール(Crunchyroll)」を運営する米イレーション(Ellation Holdings, Inc.)を11億7500万ドル(約 1222 億円)で買収し、完全子会社化すると発表した。ソニーが大型買収を仕掛けてまで手に入れるクランチロールとは、どんなサービスなのか?
クランチロールは米国のアニメ配信サービスで、基本的に日本からの視聴はできない。海外のアニメ作品を配信しているのかと思いきや、主力コンテンツは日本のアニメだ。2006年9月にアニメ投稿サイトとしてスタートした。
立ち上げ当初から日本のアニメを中心に、ファンが字幕をつけて動画投稿していた。もちろん著作権を無視した違法サイトである。日本語音声に英語やスペイン語、ポルトガル語などの字幕がつく形式で配信しているほか、現在は吹替版も制作している。
違法サイトにもかかわらず、日本アニメのファンから高い支持を得てアクセス数が急増。さすがに違法コンテンツを配信するのはまずいと判断し、2008年9月に日本法人を設立した。同11月には優良アニメコンテンツを多く放送するテレビ東京と提携し、合法的なコンテンツ配信に切り替えた。2016年4月にはKADOKAWAと海外向けアニメ配信権の包括許諾を締結した。
クランチロールを視聴するには有料会員と無料会員の2パターンがあり、有料会員は高画質で広告が表示されずプレミアムコンテンツも視聴できるほか、日本での本放送から1時間後には配信を受けられるといった特典がある。有料会員数は2012年には約10万人だったが、2019年3月には200万人を超えた。
同12月にはフランス、ドイツ、スイスでサービスを展開するVIZメディア・ヨーロッパと資本提携するなど、グローバル展開にも力を入れている。現在では200以上の国や地域で動画配信サービスを提供しているという。
2016年2月には住友商事<8053>と共同で、アニメ制作を支援する投資ファンド「クランチロールSCアニメファンド」を設立するなど、アニメ産業の振興にも貢献している。
優れたアニメ作品を選ぶ「Anime Award」も実施しており、2020年に同アワードの「ANIME OF THE YEAR」に選ばれたのは、クランチロールを買収する*米ファニメーション・グローバル・グループ(Funimation Global Group, LLC)の出資企業でもあるアニプレックスが制作した「鬼滅の刃」だった。
*米ファニメーションは、ソニー完全子会社の米ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントと同社完全子会社であるアニメ制作会社アニプレックスとの合弁会社。
文:M&A Online編集部
【訂正とお詫び】記事公開時の「現在も吹き替えにしておらず」は「現在は吹替版も制作している」、「優れたアニメ作品を選ぶ『ANIME OF THE YEAR』も実施しており、2020年の同賞に選ばれたのは」は「優れたアニメ作品を選ぶ『Anime Award』も実施しており、2020年に同アワードの『ANIME OF THE YEAR』に選ばれたのは」の誤りでした。訂正のうえ、お詫びします。