「iPod touch」生産停止で一番困るのは意外にも飲食店

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米アップルが携帯音楽プレーヤーの「iPod」シリーズで唯一、生き残っていた「touch」の生産を打ち切り、在庫限りで販売を終了すると発表した。2001年に登場し、ソニーが1979年に発売したライバル「ウォークマン」を超える大ヒットとなった。実は「iPod touch」の生産打ち切りで困りそうな業界がある。意外にも飲食店だ。

飲食店で「なくてはならない」存在に

「iPod touch」はその他の「iPodシリーズ」と異なり、4インチディスプレーを備えている。外見はスマートフォン(スマホ)と変わらない。そのためユーザーからは「電話機能のないiPhone」と呼ばれていた。いささか旧式ではあるがCPUには「iPhone7」と同じ「A10 Fusion」を採用し、最新のOSにも対応している

電話機能を装備していないため、税込み価格(以下同)が2万3980円からと安いのが特徴だ。同じストレージ容量の128GBモデルでの比較では、最も安い現行の「iPhone SE」が6万3800円なのに対して、「iPod touch」は3万6080円と3万円近く安い。

もっとも「iPhone」を持っていれば、「iPod touch」にできることは全てこなせる。それで「iPhone」の普及につれて、「iPod touch」の販売台数は減少したのだ。

一般消費者に見向きもされなくなった「iPod touch」に目をつけたのが、BtoB(法人向け)のITシステム会社だった。中でもレストランやカフェ、居酒屋、バーなどの飲食店系POSレジのオーダーエントリーシステム端末としての利用が進んだ。飲食店でオーダーを取りに来た店員が、スマホのようなものを取り出してオーダーを受ける場面に遭遇した人も多いだろう。

悩ましいオーダーエントリー端末の更新

店員は「iPod touch」の画面に表示されたボタンを押すだけで、厨房にオーダーが伝わり、会計も自動で集計できる。人手不足の飲食店業界にとって、なくてはならない設備だ。「iPod touch」が選ばれたのは、本体価格の安さもさることながら、携帯電話機能がないため毎月の通信料金が一切かからないいのが理由だ。

店側にインターネット環境があり、店舗内に無線Wi-Fiを設置すれば、レジなどとのデータ連携が可能になる手軽さが受けた。おまけに重量は88 gと軽量で、店員がシャツやズボンのポケットに入れておくことも難なくできる。

飲食店では必需品とも言えるシステムだけに、Gateシステムズ(岡山市)の「ハヤワザ」やスマレジ(大阪市)の「スマレジ」、ユビレジ(東京都渋谷区)の「ユビレジ」など、多くのシステムが飲食店向けに提供されている。

「iPod touch」の生産中止で、これらの会社は代替端末を探さなくてはいけなくなる。最もスムーズなのが、同じアップルの「iOS」で稼働する「iPhoneシリーズ」への切り替えだ。しかし、価格が高いというネックがあり、不要な携帯電話機能もついてくる。

「iPhone」同様に携帯電話機能はつくものの「iPod touch」並みに価格が安いアンドロイドスマホへの乗り換えもありうるが、OSの乗り換えが必要になり、新旧オーダーエントリーシステムの混在が難しいなどの問題点もある。

最も理想的な「解決策」は、アップルが心変わりして「iPod touch」の新モデルを投入してくれることだが、コンシューマー向けとしては魅力がなくなりつつある製品だけに望み薄だろう。

文:M&A Online編集部

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