使用済み核燃料中間貯蔵施設の調査が始まる上関って、どんな町?

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中国電力<9504>と関西電力<9503>が原子力発電所の使用済核燃料を一時的に保管する中間貯蔵施設の建設に向けての調査を、山口県上関(かみのせき)町で実施することになった。使用済核燃料中間貯蔵施設は、青森県むつ市で東京電力ホールディングス<9501>と日本原子力発電から受け入れる「リサイクル燃料備蓄センター」が建設準備中だ。上関町での建設が決まれば、全国で2番目の施設となる。立地候補地となる上関町とは、どんな町なのか?

北前船の港町として栄えるが、明治以降は衰退

上関町は人口2054人。室津半島の先端地域と長島、祝島、八島などの島で構成される。地理的な構造では九龍半島と香港島などの島からなる香港に近い。平安時代には「竈戸(かまど)関」と呼ばれ、江戸時代までは瀬戸内海航路の要衝として船荷を検査する番所が置かれた。長州の海運三関の一つで、最も都に近いことから「上関」と呼ばれる。残る「中関」は現在の防府市三田尻地区、「下関」は下関市だ。

上関は江戸時代中期に入ると北前船の風待ち港として大いに栄える。しかし、明治時代に入ると蒸気船など機関船の普及で風待ちの必要がなくなったことから、貨物船が寄港しなくなり、物流港としての役割は失われた。中関は化学や自動車などの工業地帯として、下関は貿易・水産港として栄えるが、上関は衰退。1982年に中国電力による原子力発電所の建設計画が持ち上がり、1988年には町が地元活性化の「切り札」として誘致に乗り出している。

しかし、中国電力管内は電力需給は逼迫(ひっぱく)しておらず、原発建設を急ぐ状況になかった。中国電力による建設予定地での詳細調査が始まったのは、町の誘致から17年も後の2005年になってから。地球温暖化問題で化石燃料の使用を抑えなくてはならなくなり、廃止する火力発電所の補填(ほてん)電源として建設に乗り出すことになる。

「切り札」の上関原発が頓挫、そして…

ところが2011年3月に東日本大震災に伴う福島原子力発電所事故が発生して電力会社側にも原発の経営リスクが意識されるようになり、工事に向けた動きは中断されたままだ。そこで原発用地の有効利用策として浮上したのが、今回の中間貯蔵施設建設計画だ。

上関町の2023年度一般会計当初予算は対前年度比2.7%減32億4400万円と、3年連続で減少している。町は2023年2月、中国電力に地域振興策を要請し、その具体策として中間貯蔵施設建設が提示された。調査だけでも国から山口県と町に毎年計1億4000万円が交付され、施設稼働後は「核燃料税」の税収も期待できる。

自然に恵まれた上関町だが観光の目玉はなく、1974年のNHK朝の連続テレビ小説「鳩子の海」の舞台として知られる程度。同番組から施設名をとった日帰り温泉施設「上関海峡温泉 鳩子の湯」があるが、同施設の事業費9億5300万円のうち原発関連交付金が9割近い8億4000万円を占める。

原発関連交付金で建設された日帰り温泉施設「鳩子の湯」(同施設ホームページより)
原発関連交付金で建設された日帰り温泉施設「鳩子の湯」(同施設ホームページより)

このほかにも道の駅「上関海峡」(事業費3億2400万円、うち原発関連交付金2億500万円)、町総合文化センター(同10億6200万円、同9億1400万円)など、上関町の大型公共事業は原発関連交付金で支えられているのが現状。原子力関連の税収や補助金しか地域振興の財源を見込めないことが、上関町に中間貯蔵施設を呼び寄せたのだ。

文:M&A Online