トヨタが開発した「水素エンジン」、燃料電池と何が違うのか?

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トヨタ自動車<7203>が2021年4月28日に自社開発の水素エンジンを搭載した「カローラ スポーツ」を富士スピードウェイで初公開した。公道を走行する前提ではなく、「スーパー耐久シリーズ2021」に出場するレース車両として開発されている。

トヨタが水素エンジンの実用化に含み?

しかし、トヨタは「モータースポーツの厳しい環境で水素エンジンを鍛えていくことで、サスティナブルで豊かなモビリティ社会を実現すべく、貢献していきます」と、実用化に含みを残している。

トヨタの水素エンジン車が参戦する「スーパー耐久」(同社ホームページより)

水素エンジンは、トヨタが販売している燃料電池車(FCV)「MIRAI」と同じ水素が燃料。とはいえ原理は全く違う。燃料電池は、水に電気を流して水素と酸素に分ける「水の電気分解」とは真逆の反応を利用する。燃料としての水素と空気中の酸素を化合することで水と電気を生み出し、その電力でモーターを駆動する仕組みだ。

一方、水素エンジンは燃料としての水素と空気中の酸素を化合するのは同じだが、燃料電池よりも激しく化合する。その結果、爆発的な力を発揮する。いわば水素を「燃やす」あるいはもっと端的に言えば「爆発させる」のだ。実は水素エンジンの仕組みはガソリンエンジンやディーゼルエンジンと変わらない。燃やすのが石油由来の化石燃料か、水素かという違いだけだ。

そのためエンジンも既存のガソリンエンジンやディーゼルエンジンが、ほぼそのまま流用できる。しかも排ガスのほとんどは水蒸気で、ごく微量のエンジンオイルの燃焼分を除けば、走行時にCO2は発生しない。エコカーとしては理想的に見えるが、なぜ普及しなかったのか?

「燃焼」と「貯蔵」がネック

実は水素を「燃やす」には厄介な問題があるのだ。一つは過早着火(バックファイア)の問題。水素はガソリンや軽油と違って可燃範囲が広い、すなわち「燃えやすい」ため吸排気バルブなどの高温部品に接すると、制御外の着火が起こるのだ。これではまともに走れない。

こうした問題を回避するため、構造上バックファイアが起こりにくく、幅広い燃料を利用できるロータリーエンジンで水素エンジンの実用化を目指したのがマツダ<7261>だ。

同社はロータリー水素エンジンを走行用ではなく、発電用エンジンとして利用するシリーズ方式のハイブリッド車「プレマシーハイドロジェンREハイブリッド」を、2009年に国内の官公庁や企業にリース販売した。

マツダがリース販売した「プレマシーハイドロジェンREハイブリッド」(同社ホームページより)

しかし、マツダが頭を抱えたのは水素エンジンではなく、水素タンク。燃料となる水素は貯蔵が難しく、同社は水素吸蔵合金を開発するなどの努力をしたが実用化には至らなかった。今回、水素エンジンを発表したトヨタは「MIRAI」の水素タンクを流用しており、燃料となる水素の貯蔵には問題がない。

だが、肝心の水素を供給する水素ステーションが少なく、実用化の足かせになっている。水素エンジンはFCVに比べれば量産もしやすく、低価格での販売も可能な新技術だが、燃料となる水素が手に入りにくい状況では普及は厳しいと言わざるを得ない。

ただ、水素ステーションが増えれば、車両価格を安く抑えることができる水素エンジン車はFCV以上に販売台数を伸ばす可能性が高い。多方面展開でエコカー戦略を進めているトヨタにとってみれば、水素エンジンは十分にチャレンジする価値がある技術なのだろう。

文:M&A Online編集部