ロシアはなぜ天然ガスに「弱い」ルーブルでの支払いを要求した?

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実は難しいルーブルでの決済(Photo By Reuters)

ロシアは4月1日から、日本や西側欧米諸国など「非友好的」と指定した国が天然ガスを購入する場合、ロシア通貨のルーブルでの支払いを義務づけた。現在、ロシアからパイプラインで天然ガスを輸入しているドイツなどの欧州諸国はユーロで支払っている。

欲しいのは「外貨」のはずなのに?

しかし、ウクライナ侵攻でルーブルが暴落したロシアにとっては、ユーロやドルといった国際的に通用する外貨の方がはるかにありがたいはず。なぜ、ロシア政府は自国通貨(ルーブル)での支払いにこだわるのか?

これはルーブルの「弱さ」を逆手に取った作戦だ。実は国際的な決済にルーブルが使われることは、ほとんどない。通常はロシア企業から資源や製品を購入した場合、ドルやユーロで支払われる。ロシア企業もそれを望む。なぜならルーブル払いでは、外国企業の製品やサービスを売ってもらえないからだ。

決済通貨として使われないということは、ロシア以外にはルーブルがほとんど存在しないことを意味する。つまりルーブルで支払うためには、ロシアからルーブルを調達するしかないのだ。プーチン大統領は、その「手順」を示している。

実は巧妙な「外資召し上げ」政策

非友好国企業は天然ガスの買い付けに当たって、ロシアの銀行「ガスプロムバンク」にルーブルと外貨の口座を開く。非友好国企業が同行にある自社外貨口座に外貨で振り込めば、同行が非友好国企業のルーブル口座へ両替した資金を移し、この口座からロシアの資源会社にルーブルで支払われる。

形式上は非友好国企業が自社のルーブル口座から支払った形になるが、国外から振り込むのはユーロやドルなどの外貨だ。両替手数料の問題は残るものの、「ひと手間増える」だけで運用上の影響は小さいはずだ。

むしろ深刻な打撃を受けるのはロシア企業だろう。これまではユーロやドルなど海外で通用する通貨で支払いを受けられたのに、4月以降は海外企業から受け取りを拒否される、いわば「紙切れ同然」のルーブルを押し付けられることになる。

つまり「ルーブル以外による支払い禁止令」とは、ロシア政府が統制可能な銀行を通じて貴重な外貨を輸出企業から効率的に「召し上げる」ための施策なのだ。ロシアの企業にとっては今後の調達や設備投資に必要な外貨の入手が困難になることで、持続的な経営が厳しくなるだろう。非友好国よりも、ロシア企業を「絞め上げる」ことになりかねない。

文:M&A Online編集部

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