2018年1月、ダボス会議に参加したドナルド・トランプ米大統領は、税制改革法案の通過を背景として、米国経済が好景気に沸き株価も堅調なことなどを挙げ、「米国内で雇用し、工場を建て、成長するにはまたとない機会」と強調した。
この方針に基づく一連のトランプ政策を受け、日本企業も他国に負けじと米国進出をめざしている。特に日本の自動車メーカーによる米生産台数は、2022年には690万台に達する見込みで、米国車に迫る勢いを示す。
米国内でのこれら外国企業の増益は、持続性があるのか、それとも一過性の盛り上がりで終わるのか。舞台であるアメリカでの報道を追った。
米メディアの論調を整理すると、「トランプ税制改革が起爆剤となり、投資対象として外国企業を吸い寄せており、現時点では申し分ない」との認識は共通している。ただしこの吸引力が持続するかについては論調が分かれ、手放しで歓迎する紙面もあれば、CNNのように、長期的な見通しに疑問を投げかけるメディアも見られる。以下、主だった記事を紹介する。
外国企業の投資対象として、アメリカは「カジノ以上の魅力」
ケーブルニュースのFOX businessは2018年1月24日、「海外企業をアメリカへ引き寄せるトランプ税制改革」との記事を掲載。全世界に40,000以上の薬局を構えるイタリアの製薬会社Gianluca Mech S.P.Aが、トランプ税制を受けてニューヨークへの進出を決定したことを報じ、「アメリカへの進出は(カジノで使われる)モンテカルロ投資法よりも効率が良い。企業が魅力を覚えるのは当然のことだ。」とする同社CEOのコメントを紹介した。記事はさらに、ダボス会議をふまえ、ヨーロッパの複数の銀行トップらが、イギリスからアメリカへオペレーションを移す構想を練っていることについても触れている。
90年の歴史を持つアメリカの自動車専門紙Automotive newsは、同2月6日に「海外自動車メーカーが恩恵を受けるトランプ税制、チャンスを逃がすGMとフォード」を掲載。米ビッグスリーを除き、世界の大手自動車メーカーにとってトランプ税制は恩恵(boon)となると指摘した。
記事によると、GMやフォードは苦戦を強いられている。たとえばGMは第4半期の業績で73億ドル(約7700億円)の損失を計上した。これは積み重なる赤字経営の中でひねり出してきた繰延税金資産が、トランプ政権の低い法人税率の下で評価額を低く修正されたためである。
対して、ホンダ<7267>やトヨタ自動車<7203>といった日本、そしてドイツ企業の業績の好調ぶりは著しい。
これら外国車メーカーのおかげで、アメリカへの好影響も見込まれる。特にトヨタとマツダはアラバマに16億ドル(約1700億円)の自動車工場を建設中であり、これによりアメリカ国内での生産・販売台数の伸びが期待される。トヨタは既に米国内に3万6000人以上の雇用をもたらしているが、今回の工場建設でさらに4000人の雇用創出が予想される。
伊フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)も減税の影響で1年に10億ドル(約1060億円)の節約を生んだ結果、アメリカの労働者に対し2000ドル(約21万円)のボーナスを支給することを同1月に発表した。
こういった明暗がくっきりと分かれている動向について、投資リサーチサービス会社・モーニングスターのアナリストは「皮肉な現象だ」とした上で、「政府の介入と変化には、常に予想しがたい結果がつきまとう。しかし長期的に見れば、誰もが節税を意識するようになり、すべては好都合に動くだろう」としている。
さらにブルームバーグインテリジェンスのアナリストの「今はまさに2005年以降の損失をカバーすることから、国内産業保護へ至る過渡期だ」との分析で記事を締めくくっている。
CNNは同1月22日、「世界経済を後押しするトランプ減税」を掲載。IMFが3.9%という2018年の世界の経済成長率を発表し、その成長の理由の「半分」はアメリカの税制改革にあるとのコメントを掲載した。
アメリカの成長の恩恵は、貿易相手国であるメキシコやカナダにも及ぶとしている。もっともIMFはその隆盛を「はかない(fleeting)」と表現。その理由として、税の効果の一時性と巨額の借金財政がアメリカの成長を2022年から鈍化させうることを指摘し、警鐘を鳴らした。
IMFは経済成長率に対する楽観論の「残り半分」の理由は、ヨーロッパやアジアの急速な成長にあるとした。特にユーロ圏の経済成長は推定を上回り、今年は2.2%、2019年は2.0%の成長が期待されている。
「短期的には、この勢いは全世界で続くだろう」とIMFは推測したうえで、「長期的に今の弾みが続くかどうかは複数のリスクによる」と分析した。具体的なリスクとしては、不平等、気候変動、政治的不安定、そして貿易の障壁を招きやすい「内向き志向(inward-looking policies)」を挙げた。
カリフォルニア大学バークレー校のモーリス・オブストフェルド教授も同様の趣旨のコメントを寄せている。「現在の経済の勢いは、長続きする見込みの小さい要因を少なからず抱えている。次の危機は、我々が考えているよりも身近にある」。
米国第一主義の輸入制限表明が、好況にブレーキをかけるか
同3月1日のブルームバーグは、「『トランプ政権の関税は自動車メーカーに悪影響』とトヨタがコメント」という見出しの記事を掲載した。アメリカ国内への鋼材輸入に25%、アルミニウム輸入には10%の関税引き上げを実施した場合、日本の自動車メーカーが受ける影響を試算。
トランプ減税がもたらす恩恵も、コスト上昇に伴う製品の値上げにより打ち消される可能性があると示唆している。「新製品や新工場のための投資は、既存の製品の鉄鋼やアルミ等原料代を支払うために、ファネル(funnel*)されていくだろう」と分析する声もある。
一国の「内向き志向」が現在の活況に水をさす可能性については、IMFもコメントしているとおりである。トランプ大統領が発表した、鋼材・アルミに対する関税引き上げをその徴候と見る向きもあるだろう。今後の動向を見守りたい。
*【編集部注】funnelには(集めた上で)…に集中する、注ぐ、つぎ込む、送るなどの意味がある。
<参照>
http://www.foxbusiness.com/mar...
http://www.autonews.com/article/20180206/OEM/180209841/trump-taxes-gm-ford-toyota-policy
http://www.ibtimes.com/president-trumps-tax-reform-creating-jobs-united-states-2640819http://money.cnn.com/2018/01/22/news/economy/imf-trump-tax-cuts-global-economy/index.html?iid=EL
文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部