トランプ大統領就任 米国でM&Aに動きそうな企業は?

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 2017年1月20日、米国でドナルド・トランプ大統領が就任する。トランプ氏が掲げる大胆な減税とインフラ投資の拡大、規制緩和は米経済や企業活動を活性化させ、M&Aにも好影響を与えると予想される。米国でM&Aを検討する日本企業にとっても好機となりそうだ。

 私は金のために取引をするわけではない。金ならもう十分持っている。一生かかっても使い切れないほどだ。私は取引そのものに魅力を感じる。キャンバスの上に美しい絵をかいたり、素晴らしい詩を作ったりする人がいるが、私にとっては取引が芸術だ。

 トランプ氏は自身の著作「トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ」で取引についてこう述べている。大学卒業後、デベロッパーである父の下で働いたが、大きな取引を夢見てすぐにニューヨークに移住。マンハッタンに超高層ビル「トランプ・タワー」を建てたほか、ニュージャージー州のアトランティック・シティでカジノ経営にも乗り出し、不動産王と呼ばれた。

 派手な発言で知られるトランプ氏だが、取引を成立させる過程では、市から減税措置を引き出したり、銀行から有利な条件で資金調達したりと契約の細部にこだわりを見せていた点も見逃せない。そんなトランプ氏が大統領になれば、不動産開発や金融機関が活動しやすくなるような減税や規制緩和策が講じられる可能性が高いだろう。トランプ氏が本拠とするニューヨークを中心に地価の上昇期待も生まれそうだ。

 追い風になりそうな日本企業の1社が三菱地所<8802>だ。三菱地所は2015年1月、米国子会社であるロックフェラーグループ・インターナショナル社を通じて米国内において投資マネジメント事業を展開するTAリアルティ社を買収した。同社が組成した不動産ファンドを通じた米国での不動産投資額は10億ドル(約1050億円)に達している。

 同ファンドでは三菱地所だけでなく、第三者の投資家の資金も活用。ボストンやワシントンD.C.にあるオフィスやロサンゼルスの物流施設などに投資している。三菱地所はロックフェラーグループ・インターナショナルなどを通じて米国での不動産開発事業や投資事業を拡大していく方針だ。

三井住友・SOMPO、買収タイミングよく

 米国でインフラや不動産投資が活発になることで恩恵を受けそうなのは三井住友フィナンシャルグループ<8316>。米国向けの貸出金、出資金等の残高は2016年9月末時点で2008億ドル(約20兆円)とメガバンクでは最大規模だ。

 同グループは米国で金融事業だけでなく、リース事業も展開している。2013年に傘下の三井住友銀行が米国大手の貨車リース会社を買収。さらに2016年12月、米貨車リース会社のアメリカン・レールカー・リーシングを買収すると発表した。米著名投資家のカール・アイカーン氏が率いるファンドから2017年前半に全株を取得する。

 米国の鉄道輸送はトラック輸送等ほかの輸送手段に比べて輸送効率や環境保護の観点から存在感が高まっている。今回の買収によって三井住友グループは5万両超を保有する全米第6位の貨車リース会社となる。トランプ氏は米国内のインフラ投資拡大を予定していることから鉄道輸送の需要は堅調な伸びが期待できそうだ。 

 保険業界で注目されるのはSOMPOホールディングス<8630>。米大統領選に1ヶ月先立つ昨年10月、総額6394億円の巨額買収を発表した。米保険会社のエンデュランス・スペシャルティ・ホールディングスの全株を17年1-3月期に取得する。

 エンデュランスは米国を中心に元請け・再保険をバランス良く手がけ、特に農業保険では米国第5位の実績を持つ。買収価格は1株あたり93ドル、買収プレミアムは過去3ヶ月間の平均株価の40%に相当する。買収価格の妥当性については判断が難しいところだが、米大統領選以降は米株高・円安ドル高が急速に進んだだけに良いタイミングの買収だったと言えるのではないだろうか。

オーナー企業と好相性、ソフトバンク・日本電産など有力か 

 ところで「米国の国益を最優先」する姿勢を示すトランプ氏にとって、他国の企業が自国の資産や企業を買収することについてどう思うのかが気になるところだ。

 トランプ氏は著書「トランプ自伝」で、自身が建てたトランプ・タワーのアパート販売時に買い手として現れた外国人について以下のように語っている。

 もう一つの新しい買手グループは日本人だ。日本人が自国の経済をあれだけ成長させたことは尊敬に値するが、個人的には、彼らは非常に商売のやりにくい相手だ。まず第一に、六人、八人、多い時は十二人ものグループでやってくる。話をまとめるためには全員を説得しなければならない。二、三人ならともかく、十二人全員を納得させるのは至難のわざだ。その上、日本人はめったに笑顔を見せないし、まじめ一点張りなので取引をしていても楽しくない。幸い、金はたくさん持っているし、不動産にも興味があるようだ。

 トランプ氏は日本人がお金を持っていることに対しては一目を置きつつも、商売ではやりにくい相手と感じているようだ。サラリーマン社長が経営する一般的な日本の大企業よりは、創業者が健在なオーナー企業の方がトランプ氏と気が合うかもしれない。

 それでは今後、米国で買収に動きそうな企業はどこか。過去に米国で比較的大きなM&Aを実施した企業(計画中も含む)をピックアップしてみた。

ソフトバンクグループ  2013年7月 米携帯電話会社スプリント・ネクステルを216億ドル(約1.8兆円)で買収
日本電産  2016年8月 米エマソン・エレクトリックのモータ・ドライブ事業および発電機事業を12億ドルで取得すると発表
ダイキン工業 2012年 米国の住宅用空調メーカー、グッドマンを総額37億ドル(2960億円)で買収

2016年4月 米国のエアフィルターメーカー、フランダース社を4億3000万ドル(507億円)で買収

セブン&アイ ホールディングス 2016年5月 米国のガソリンスタンド・コンビニチェーンから79店舗を取得
日本ペイントホールディングス 2016年12月 米国の建築料塗料大手、ダン・エドワーズを2017年3月をめどに買収すると発表

 なかでもソフトバンクグループ<9984>の孫正義社長は昨年12月、ニューヨークのトランプ・タワーでトランプ氏と会談。米国に総額500億ドル(約5兆円)を投資し、5万人の雇用を生み出すと表明したと報じられた。トランプ氏は米国の雇用創出につながるような投資計画には歓迎する意向を見せている。ちなみに孫社長とセブン&アイ ホールディングス<3382>の井坂隆一社長は1957年の酉年生まれの経営者でもあり、二重の意味で注目される。

 ただ「ジャパンマネー」が相次いで米国の名門企業や優良資産の買収に動くと、トランプ氏が保護主義に傾くリスクもある。米国にとって友好的な買収かどうかという政治的意義を強調できるかどうかも買収の成否を左右しそう。日本企業トップの「トランプ詣で」も増えるかもしれない。

まとめ:M&A Online編集部