【運輸業のM&A】件数、取引総額ともに過去10年で最高を更新

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(写真はイメージ)

2022年の運輸業界(陸運業、海運業、空運業、倉庫・その他運輸)におけるM&A(12月27日現在)は件数が前年比3倍の33件と3年ぶり、取引総額は同1万6149倍の約8137億円と2年ぶりに増加するなど好調だった。件数は2019年の28件を、取引総額は2015年の約1840億円をそれぞれ超え、いずれも2013年以降の10年間で過去最高を更新している。

コロナ不況から一転、物流需要回復でM&Aが活発に

取引額の公表件数が9件と前年の2件を大きく上回ったのに加え、前年の最高額が2600万円だったのに対して1000億円を超える大型案件が3件あったため。新型コロナウイルス感染症対策の活動制限が緩和され、経済の正常化に伴う物流需要の回復と人手不足などからM&Aが活発化したとみられる。

クロスボーダー案件は前年比3件増の5件だったが、全体に占める割合は前年比3.0ポイント減の15.1%と減少している。前年はなかったTOBは3件。取引総額は1位、2位、5位と上位にランクインし、TOB案件だけで全体の76.3%を占めている。

運輸業界で注目された案件は2月7日に発表された、みちのりホールディング(東京都千代田区)による佐渡汽船<9176>の子会社化。業績不振が続いていた佐渡汽船は子会社化に伴い東証ジャスダックでの上場を廃止したが、発表前営業日に1株あたり202円だった同社株を30円で引き取るスクイーズアウトを実施。

その発表直前の1月28日に岸田文雄首相が「佐渡島の金山」を世界文化遺産として国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する方針を表明したばかりで、観光客の増加を見込んで佐渡汽船株が上昇していた局面だったため投資家に衝撃が走った。

このほか中部日本放送<9402>がタクシー事業子会社を大阪バスに譲渡する「選択と集中」案件もあった。

トップ3は1000億円超の大型案件

同業界の取引総額のトップは米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が4月28日に発表した、日立物流<9086>に最大4492億円でTOB(株式公開買い付け)を実施して非公開化する案件。KKRがTOBを通じて日立物流株の60.09%を取得する。

筆頭株主で株式39.91%を保有する日立製作所<6501>はTOBに応募せず、TOB成立後に日立物流が日立の全保有株式を自己株式取得。日立は日立物流の親会社となるKKR傘下企業に10%を再出資し、日立物流の経営に関与を続ける。

取引総額2位は近鉄グループホールディングス<9041>が5月13日に発表した、近鉄エクスプレス<9375>の完全子会社化を目的に最大1680億円でTOB(株式公開買い付け)を実施する案件。近鉄グループは近鉄エクスプレスの株式47%余り(間接保有を含む)を保有し、持ち分法適用関連会社としていた。

コロナ禍や米中対立、ウクライナ危機などで国際物流を取り巻く環境が大きく変化する中で、近鉄グループ全体で経営資源を最適配分できる体制づくりが重要と判断した。

取引総額3位は商船三井<9104>が10月31日に米国子会社でコンテナターミナル事業を運営する持ち株会社インターナショナル・トランスポーテーション(ITI、カリフォルニア州)の全株式を2社に譲渡する案件。譲渡先は明らかにしていない。

このうち1社に株式49%を約1669億円で2023年1月に譲渡する予定。もう1社に残る株式51%を同2月に譲渡するが、こちらの金額は非公表。

2023年は物流需要の回復は期待できるものの、ドライバーや倉庫スタッフなどの人手不足に加えて燃料コスト高騰といったマイナス材料も懸念され、規模拡大や事業効率化のためのM&Aが活発化する可能性が高そうだ。

2022年の運輸業のM&A(取引総額公表分のみ)

順位 公表日 内 容 取引総額(億円)
1 4月28日 米KKR、日立物流をTOBで非公開化へ 日立は10%再出資 4,492.30
2 5月13日 近鉄グループホールディングス、近鉄エクスプレスをTOBで子会社化 1,680.09
3 10月31日 商船三井、コンテナターミナル事業の米国子会社「ITI」の全株式を2社に譲渡 1,669.00
4 4月28日 住友倉庫、米国海運子会社のウエストウッドをシンガポール海運大手スワイヤーに譲渡 185.00
5 2月18日 丸和運輸機関、EC物流のファイズホールディングスをTOBで子会社化 43.09
6 6月27日 丸和運輸機関、物流業のM・Kロジを子会社化 41.44
7 2月7日 佐渡汽船、みちのりホールディングスの子会社として再建を目指す 上場廃止へ 15.00
8 1月20日 トランコム、シンガポール物流会社Starlink Resourcesなど2社を子会社化 11.41
9 11月9日 大東港運、持ち分法適用関連会社で運送事業の眞榮ロジを子会社化 0.15

(12月27日現在)

文:M&A Online編集部